神殺しのクロノスタシス3

…こうして。

連日に渡って、僕は心の仮面の裏側を覗き見る訓練を続けた。

勿論、対価であるツキナさんの写真は、ちゃんとすぐりさんにあげたよ。

それはともかく。

一度成功したのは、まぐれではなかったようで。

上手いことコツを掴んだ僕は、二回目、三回目と成功し。

どれだけ気を逸らされても、失敗するということはなくなった。

頑張って心に蓋をしようとしているすぐりさんには、申し訳ないが。

蓋の中を覗くことは、難しくなくなった。

いや、難しいのは難しいけどね。

問題は、心の蓋に辿り着き、その亀裂の隙間に糸を通すまでの、時間。

先程も言ったが、実戦の場面では、敵は僕が心の仮面を剥がすのを、悠長に待ってはくれない。

一分どころか、30秒だって待ってはくれない。

拘束するなり麻痺させるなりして、精々10秒ほどの猶予しかないと思った方が良い。

目指せ、10秒で心の奥。

それを目標に、僕は訓練を続けた。

そして、しばらく訓練を続けるうちに、実際10秒程度で、心の仮面を剥がすことが出来るようにはなった。

それ自体は喜ばしいし、我ながらよくやったとは思うのだが。

「…これ以上、すぐりさんの心の中を覗いても、もう意味ないですね」

「…そーだね」

すぐりさんも、分かってると思うけど。

僕も分かってる。

僕の練習相手になってくれたのは、すぐりさんだけだ。

僕が心の蓋を開けられたのは、すぐりさんだけ。

つまり、すぐりさんの心の蓋は開けられるようになったけど。

他の人間に、同じやり方が通用するかどうかは、分からないのだ。

こればかりは、どうしようもない。

すぐりさんの他に、心に仮面をつけられる人がいないのだから。

練習相手となれる人物が一人しかいない。

そして、その唯一の練習相手とは、散々練習して、完全に会得した。

もうこれ以上、すぐりさんと訓練しても無駄だ。

…まぁ、これ以上すぐりさんの、ツキナさんへの下心にまみれた恋愛事情を知ってもしょうがない、って言うか。

特に知りたくもない、っていうのもあるが。

とにかく。

あとはもう、実戦で試すしかない。

「俺を相手に、完璧に習得出来たとは思わない方が良いよ」

すぐりさんが言った。

「俺も他人のことは分からないけど、多分心の仮面の壊れやすさは、人によって違う」

「…」

「特に俺のは、敵に読心魔法の使い手がいると知ってから、急場でこしらえた、謂わば付け焼き刃みたいなものだから。訓練した人間なら、もっと頑丈な仮面をつけてくると思う」

「…でしょうね」

すぐりさん相手に、完全に攻略出来たと喜んでる訳にはいかない。

すぐりさんは、難易度としては低い方なのだ。

これから来るであろう、『終日組』の暗殺者…。

それから、間違いなく『終日組』の暗殺者より、長い訓練を積んだであろうヴァルシーナ。

彼女達の心の仮面は、恐らくすぐりさんのそれとは、比べ物にならないほど頑丈だろう。

そう簡単に、壊されてくれるとは思えない。

それだけの自信も、僕にはまだない。

…だから。

「大丈夫。次の手を、もう考えてありますから」

この程度。

この程度で、満足はしていられないのだ。