神殺しのクロノスタシス3

「あいつ何処行ったんだ?」

職員室でも、あんまり姿を見ないんだよな。

姿を見ても、何となくよそよそしいと言うか…大人しいと言うか…。

「また、稽古場で生徒達に愛想振り撒いてるんじゃないんですか?」

と、相変わらず辛辣なイレース。

その可能性はあるな。

何せ、そのイケメンぶりで、シルナから学校一の人気教師の座を奪い取った男だからな。

またしても稽古場で、生徒達に実技の補習を行っているのかもしれない。

すると。

「不死身先生なら、多分『八千歳』と一緒にいるんじゃない?」

もぐもぐと、芋菓子…ならぬ、スイートポテトを食べながら。

令月が、そう教えてくれた。

「すぐりと…?何で?」

「なんか、『八千歳』と不死身先生が共謀して、毎日良からぬことを企ててるみたいだから」

何だと?

「何してんの?あいつら…」

あまり性格が良いとは言えない二人だから、つるんで欲しくないんだが?

「さぁ、そこまでは聞いてないけど…。『八千歳』がたまに変なこと聞いてくるから」

「変なこと?」

「王子様になるにはどうしたら良いか、とか…」

「…??」

あいつら、本当に何をしてんの?

国家設立でも目論んでるのか?

放置しておいて大丈夫なんだろうか。

「シルナ、ナジュが何やってるか聞き、」

と、言おうとしたそのとき。

「学院長先生~。お邪魔しまーす」

「こんにちはー」

女子生徒が二人、学院長室を訪ねてきた。

あれは確か、四年生の生徒だったか。

「あれっ、二人共どうしたの?」

「お菓子もらいに来ました~」

「おやつくださ~い」

半分冗談めかして、二人が言った。

普通の学院なら、放課後に生徒が学院長の部屋を訪ね、おやつをねだるなんて有り得ない光景だろう。

しかし、我がイーニシュフェルト魔導学院では。

シルナは、目を輝かせて。

「よく来たね君達!良いところに!今日のおやつはね~、スイートポテトだよ~。ほらほら座って座って」

この待遇だもんなぁ。

「飲み物は何にする?何が良い?」

「私はココアで!」

「私はオレンジジュースが良いです」

「は~い、ちょっと待っててね~!」

いそいそと、生徒達の飲み物を用意しに行くシルナ。

…うちは、これだからな。

最初の頃は、こんなこととんでもないと憤慨していたイレースも。

「あなた達、課題は終わってるんでしょうね?」

「は~い」

「終わらせてきました~」

「それなら良いですけど…。全く…」

やれやれ、と諦め顔。

何度言っても、聞く耳を持つシルナではないし。

これがイーニシュフェルト流と言い張るのだから、もう諦めもするというもの。

ごめんな、イレース。

「はーい持ってきたよ~!イレースちゃんにもほら!羽久にも!」

生徒達の分のみならず、俺達の分までしっかり持ってきてるしさ。

「令月君、お茶おかわりどうぞ」

「どうも」

令月にはおかわりまで。

「…全く…」

満面の笑みで、生徒達とスイートポテトを頬張るシルナを見て。

今日も深々と溜め息をつく、イレースなのだった。





…そのときには。

この騒動のせいで、俺はもう、ナジュのことを忘れてしまっていた。

このとき、俺がちゃんと、ナジュのことを気にかけていれば。