神殺しのクロノスタシス3

「心に仮面を被る。言うは易しだけど、実際やろうと思ったら、けっこー大変だったよ」

「…大変さで例えると、どんな具合で?」

「そうだなー。片手逆立ちで、腕立て伏せしながら校庭一周くらいの難易度」

出来る人いるんですか?それ。

まぁ、出来る人がいるから、こうなってるんだけど。

少なくともすぐりさんとヴァルシーナは、その片手逆立ちアクロバットが出来た、ってことが証明されてるんだ。

「よく出来ましたね、そんなことが」

「…あのときの俺は、『八千代』への復讐心でいっぱいだったからねー。『八千代』を殺す為なら、どんな血反吐を吐くような努力も苦じゃなかったんだよね~」

…と、あなたは笑って言うけれど。

僕は笑えない。

それだけの努力という対価を支払えば、僕の目を誤魔化せると証明されたのだから。

つまり、ヴァルシーナもそうか。

憎きシルナ・エインリーを殺す為、その為に僕を利用しようとし。

その僕に本心を悟られない為、血反吐を吐く努力をして、読心魔法対策を編み出したと。

そして、それを僕に悟らせなかった。

ヴァルシーナと比べたら、すぐりさんの方は若干、違和感が大きかった。

付け焼き刃の訓練だったってことなんだろうけど。

「それに、この『読心魔法対策』状態、長くは続かないよ」

「そうなんですか?」

「自分の心を騙し続けられる時間なんて、長く続けられる訳ないじゃん。精々三分…。めちゃくちゃ集中して五分、ってところかなー、良いとこ」

…五分…か。

「精神力使うし、集中力も使う。正直、使わずにいられるなら使わずにいたいねー。少しでも気を抜いたら、一瞬で剥がれるんだからさ」

「…」

「だからまぁ…何が言いたいのかっていうと」

すぐりさんは、腰掛けていた机の上から、ひょい、と降りた。

「そんなに簡単じゃないんだよ。心に仮面をつけるのは」

「…そうですか」

「誰でも出来る訳じゃない。同じ『終日組』でも、『玉響』には会得出来なかった。『八千代』みたいに、元々自分の感情が希薄な人間なら、比較的簡単かもしれないけどねー」

「…それは、分かりました」

簡単には出来ない。

誰にでも出来る訳じゃない。

片手逆立ちでアクロバットしながら、校庭一周する難易度だってことも分かった。

でも、僕にとってはそんなこと、どうでも良い。

誰にでも出来る訳じゃないとか、めちゃくちゃ難しいとか、そういうことが問題なんじゃない。

「対策出来てしまうこと」。

これ自体が、僕にとっては大問題なのだ。