神殺しのクロノスタシス3

それから一時間後。

花曇すぐりが、僕のもとにやって来た。

「…早かったですね」

「早く済ませてきてあげたんじゃん。意味深なこと言うからさ~」

それはそれは。

「どうも済みませんね。大事な恋人との逢瀬の時間を邪魔して」

「残念だね~。恋人とはまだ言えないんだよ」

え。

「俺はそのつもりだったのに、向こうがイマイチ本気にしてないって言うか…」

「はぁ…。それは残念でしたね…」

まぁ、視界の隅で挽き肉になってる人間がいても、平気でスルーする天然ぶりだからね。

あの子はそういう子だってことだ。

「って言うか、それくらいお得意の読心魔法で分かるんじゃないの?隙あらば人の心読んでるんでしょ」

グサッ。

今それを気にしてるから、あまり安易に口に出さないで欲しい。

…って、それもこれも全部、僕のせいなんだが…。

「読んでませんよ。…今は」

「ふぅん?それで、俺に何の用?」

「あなたのことだから、大体察しているのでは?」

「そうだね~…。やっぱりあれかな?」

あれ?

「俺に読心魔法の弱点を見破られてたことが、よっぽどショックだったのかな~?意外と対策可能だなんて、本人も知らなかったみたいだからねー」

おちょくるような口調で、そう言われた。

…笑って済ませられることなら、良かったんだけど。

「そうですね」

「…」

僕が、あまりにも素直に認めたものだから。

すぐりさんも、少し驚いているようだった。

「…何?『対策』されてたの、そんなにショックだった?」

「…以前にも、同じことがありましてね」

ヴァルシーナもまた、僕に対して仮面を被っていた。

そんな前例があったのに、またしても引っ掛かってしまった自分の愚かさを呪う、

その気持ちが、誰かに分かって堪るか。

「ふ~ん…。意外と殊勝なところあるんだねー」

「僕はこう見えて、繊細な少年のハートなんでね…」

あなたに「慢心」とか言われて、心にグサッとナイフ突き立てられて。

未だに、その傷が塞がらないんだよ。

天音さんでも、シルナ学院長でも治せない傷が。

「その上で、僕も読心魔法の弱点を克服しようと思いまして」

「ふ~ん…。成程、それで俺を呼んだ訳ね」

「ご名答です」

「でも俺、読心魔法のおっさんと過ごすより、ツキナと一緒に過ごす時間の方が大事なんだよね~」

それは分かるよ。

僕だって同じだ。

「だから、君の読心魔法なんてどうでも良いって言うか…」

…そうでしょうね。

いざとなったら、心に仮面をつけられるあなたにとっては。

「…どうでも良くない?」

けろっとして言われた。

「…どうでも良くないんですよ、これが」

「ふーん…?何で?」

「あなたなら、分かってくれると思ったんですけどね」

「何を?」

「暗殺出来ない暗殺者に、用はないでしょう?」

「…あぁ~…。はいはい、成程ね、そうだね」

ようやく納得してくれたようだ。

暗殺出来ない暗殺者に、用はない。

読心魔法の使えない読心魔法の使い手に、用はない。

同じだろう?

「…まぁ、良いよ。一応君は、俺の命の恩人…ってか、自爆を邪魔されただけなんだけど」

「…」

「協力…してあげないこともないかな~。俺優しいからね~」

「…どうも、ありがとうございますね」

不甲斐ない僕の為に。