神殺しのクロノスタシス3

あのとき。

僕が、『玉響』さんだけじゃなくて、すぐりさんの方にも注意を払っていたら。

もっと早く、すぐりさんの殺意に気づいていたら。

僕は、『玉響』さんを死なせずに済んだはずだ。

いや、その前に。

僕が自覚していなかった、決定的な弱点。

心に仮面を被った相手の心は、読めない。

今回の件で、僕はそれを思い知らされた。

違和感を感じていたのに。

すぐりさんが最初に、寝返ると言ってイーニシュフェルトの生徒になったとき。

あの人は、心に仮面を被っていた。

僕に心を読まれても良いように、自分の思考をコントロールしていたのだ。

彼に読心魔法を使ったとき感じた違和感の正体は、それだったのだ。

そしてあの違和感を、僕は、ヴァルシーナと会うときも感じていた。

つまりあの女も、僕の読心魔法の弱点を…自分ですら自覚していない弱点を…見抜いていたのだ。

僕は、蓋をされた思考だけを読んで、相手の心を見透かしたつもりでいた。

なんと滑稽なことか。

皆思っていた。

口には出さないし、強く思っていた訳じゃないけど。

少なくとも、イレースさんと、羽久さんと、天音さんと、あと令月さんと。

この四人は、思っていた。

心の隅っこで。

この四日間、四人共ちらりと僕を見舞いに来てくれた。

そのとき、僕は彼らの心を読んだ。

「お得意」の読心魔法で。

そして知った。

彼らが、心の隅っこで何を考えていたのか。

全員共通していた。

「お前が『ちゃんと正しく』心を読んでいたなら、こんなことにはならなかった」と。

本人達も、自分の意思とは関係なく、無意識に思っているようだった。

自覚はしていない。でも、心の何処かでそう感じている。

自分でも、そう思われるのは当然だと思う。

実際、羽久さんとイレースさんには言われたしな。

普段は、無駄なことを読んでは他人をからかうのに。

肝心なときに役に立たない、と。

僕もそう思った。

そして、今回の事件。

見舞いに来てくれた彼らの無言の思考は、僕を酷く傷つけた。

シルナ・エインリー学院長だけは、僕を責める気持ちは全くないみたいだった。

あれはもう仕方ない、しょうがないことだと思っているらしかった。

でも、他の四人は。

口には出さないし、本人達も自覚していないけれど。

心の何処かで、僕の読心魔法の甘さに落胆し、僕に失望していた。

この役立たずめ、という気持ちがあるってことだ。

これには、さすがの僕もちょっと傷ついた。

え?僕でも傷つくことがあるのかって?

そりゃありますよ。こう見えて僕、繊細な男の子だもん。

…っていう、冗談は置いておいて。

実は、彼らの無意識の言葉に、本当に傷ついたのだ。

そして、自分の愚かさを呪った。

花曇すぐり、君の言う通りだ。

僕は、自分の読心魔法に慢心していた。