神殺しのクロノスタシス3

…何だろう。

今まで自分がずっと不死身で、身体の傷とか労られたことがないせいか。

いきなり、「大人しく寝てさなさい」と言われると。

何と言うか…物凄く、こう。

フラストレーションを、感じる。

「…あのですねぇ」

僕は上半身を起こして、肘をついて言った。

「か弱いお姫様じゃないんですよ?ぶん投げようが切り裂かれようが毒飲まされようが、けろっと再生する不死身の身体!死にたくても死ねない身体!」

「うん、知ってる」

「そんな人間が、ほんのちょっとミンチにされて、ほんのちょっと爆弾ゼロ距離で食らって、ほんのちょっと致死性の毒を浴びたからって、何で何日も大人しくしてなきゃならないんですか?」

「だってそれ全部、普通の人だったら死んでるもん」

そりゃそうだけど。

「でも僕は死にませんから」

「死ぬとか死なないとか関係ない。怪我人と病人は、大人しくしてるのが仕事でしょ」

「だから、か弱いお姫様じゃないんだから…。このくらい平気ですよ。今までだって、内臓はみ出したまま授業やってたことだってあるし…」

「残念だったね。僕がイーニシュフェルト魔導学院の保険医になったからには、そんな勝手は許さないから」

にっこり笑顔の天音さん。

…こんなに威圧感を感じる笑顔も、なかなかない。

「それに、羽久さんからも頼まれてるしね」

「羽久さん…?」

「『あの馬鹿、完治するまで絶対医務室から出すなよ。何回言っても肉壁になりやがってあの馬鹿。罰だ』って」

「…うわぁ…」

陰湿。

そういう陰湿なことすると、嫌われるよ?

「皆して大袈裟な…。多少、いや…死ぬほど無理したって、死ぬ身体じゃないのに…」

死ぬほど無理しただけで死ねるなら、こんなに苦労してないよ。

伊達に何百年も、不死身の身体で生きてる訳じゃない。

それなのに、今更こんなに過保護にされても…。

「…何で、そんなに早く戻りたいの?」

と、天音さん。

何で、って…。

「授業なら、イレースさんや学院長の分身さん、羽久さん達が代わってくれてるんでしょ?」

「それはそうですけど…。でも悪いじゃないですか、あの人達も暇な訳じゃないのに、こう何日も代わってもらうの…」

「…そんな殊勝なこと考える人だったんだ…」

「…ひっど…」

僕だって、ちゃんとイーニシュフェルト魔導学院の教師としての自覚がね?

同僚に迷惑をかけるのは悪いという気持ちが、多少なりともあるんだって、分かってもらいたいところだ。

「それにほら、僕を待ってる生徒がいるんですよ。僕、イーニシュフェルトでも随一の人気教師ですから」

「はいはい、そういうのは良いからねー」

話聞いてよ。

僕が何日も寝てる間に、僕の株が下落したらどう責任取ってくれるんだ。

最悪忘れられ…はしないと思うけど

…って。まぁ。

それは、建前だ。

「不死身なのに寝てたら、ずる休みしてる気がする…」

「良いじゃない、たまにはずる休みも」

イレースさんが聞いたら、激怒しそうな言葉ですね。

そりゃ、僕だって。

たまにはずる休みも良いとは思うけど。

でも、そうじゃない。

そうじゃないのだ。

「分かった。じゃあ大人しくしてますから。授業には出ませんから。代わりに自分の部屋で休ませ、」

「ごめんね。完治するまでは絶対医務室から出すな、って上司から命令されてるから」

「…最低な上司ですよ、本当…」

こうなっては、最早為す術なし。

僕は、諦めて枕に頭を預けた。

それを見て、天音さんは満足そうに微笑んだ。

ドS系養護教諭、天音さん爆誕だよ。全く。