神殺しのクロノスタシス3

─────…学院長室に、白煙が舞った。

すぐりが、魔力で作った爆弾を抱いて、令月に飛び掛かった。

そこまでは見えた。

そして。

白煙をかき分けた向こうに、半ばペースト状になった赤い肉片が見えた。

「…!おまっ…!」

それが誰なのか認識した途端、俺は叫び声をあげた。

「ナジュ…!!お前、この、馬鹿っ!!」

全身ペースト状に潰され、顔も半分消し飛んだナジュが、床に倒れていた。

すぐりが令月に抱きつく前に、その間に滑り込んだのだ。

そして、すぐりの代わりに爆弾を自分が抱き締め。

一瞬だけ、空間魔法で別空間に飛び。

そこで起爆させ、また戻ってきたのだ。

「あ、はは…。見よう…見まねで…空間、魔法…習っといて、正解だっ…た…」

「ナジュ、お前!この馬鹿!なんてことを…!」

「め…っちゃ痛い…。これ…僕、不死身…じゃなかったら、死んで…ましたよ…」

笑って言うことじゃねぇだろ。

「ナジュ君…!」

シルナが、すぐさま回復魔法をかけた。

だが、恐ろしく治りが悪い。

毒魔法の使い手であるすぐりが、特別に作った爆弾なのだ。

爆弾の中に、毒を練り込むくらい、訳ない。

「…!」

すぐりは、渾身の特攻をナジュに阻止され、呆然と立ち尽くしていたが。

「…何で…だよ…」

「…!令月!」

すぐりは令月の襟首を掴み、思いっきり壁に押し付けた。

「何でなんだよ!いつもいつも!お前ばっかり…!お前ばっかり大事にされて、お前ばっかり認められて、守られて、俺と同じ、血塗れの手をしてる癖に。お前だけ真っ当に人生やり直す機会を与えられて!」

「…『八千歳』…」

「生まれながらの人殺しには、そんな機会すらないんだよ!お前みたいに、洗脳されて人殺ししてた訳じゃないから!自分の意思で殺してた俺には、もうやり直す機会もないんだよ!死ぬしかないんだよ!せめてお前を巻き込んででも死ななきゃ、何の意味もない人生になるんだよ!俺に殺された人も報われないんだよ!」

「…」

「それなのに…何でお前は生きてるんだ。何でお前だけ…!いつもいつも…!」

劣等感。

劣等感だ。

自分が相手より劣ってるのが分かってて、それが許せなくて。

追い付こうと必死に手を伸ばすのに、相手は自分より、ずっと高いところにいる。

自分では、絶対に届かないところに。

ならば、せめて。

自分の命を捨ててでも、相手を道連れにして蹴落としてやりたい。

だって、そうでもしなきゃ。

相手を追い抜こうと、血を吐くほどに頑張った自分の努力が、全部無意味だったことになってしまうから…。

…すぐり。

それは違う。

それは違うんだ。

お前は、そうじゃなくて…。

…すると。

「…!?」

「…」

令月は、すぐりに襟首を掴まれたまま。

そのまま、すぐりの背中に手を回し、彼をぎゅっと抱き締めた。