神殺しのクロノスタシス3

だけど、俺は負けた。

見事だったよ『八千代』。

君はまともな人間の癖に、俺みたいな、生まれながらの暗殺兵器じゃなくて、普通の人間の癖に。

何で、俺より強いのかな。

不条理だよね。

俺は負けた。『八千代』に負けたんだ。だからもう、頭領様に認められることはない。

永遠にない。

俺の命は終わったよ。言っただろ?俺はあのとき、もう死んだんだって。

ここにいるのは死体なんだよ。頭領様に認められないなら、俺に生きる価値はないからね。

叶うことなら、俺だって普通に生きたかったよ。

普通に、優しい両親のもとに生まれてさ。

何の心配もなく、普通に生きてみたかった。

普通に友達とか作って、普通に恋人とか作って、普通に生きてみたかった。

でも出来なかった。そんなこと、俺には許されなかった。

血生臭い、汚れた人生しか許されなかった。

そしてその人生にさえ、もう価値はなくなった。

じゃあ、何で潔く自決しなかったのかって?

生きてる価値はもうないけど、一応心臓だけはまだ動いてる。

頭領様に認められることはない。

ならせめて、『八千代』…裏切り者で、大嫌いで、目障りな君を…。

「…道連れにして、死んでやろうと思ったんだ」

そうしたら、ほんの少し。

ほんの少しくらいは。

頭領様も、一瞬だけでも、「あいつは役に立った」と思ってくれるんじゃないかって。

そう思ったんだ。

だから。

「…一緒に死のう?『八千代』」

俺は、『八千代』に負けたそのときから、ずっと体内に蓄積していた魔力の塊を。

魔力で作った爆弾を抱き抱えて。

『八千代』に向かって、飛び付いた。














…しかし。

驚愕する『八千代』と俺の間に、黒い影が滑り込んだ。

「ナジュ君!!」

遠くから、爆発音と共に、シルナ・エインリーの叫ぶ声が聞こえた。