神殺しのクロノスタシス3

「『玉響』は、最初から堅実な作戦で『八千代』を仕留めるつもりだった。暗殺者の鑑みたいな作戦だったよ」

「…その作戦っていうのは?」

「まぁ最後まで聞いてよ」

あ、済まん…。

「作戦については、『玉響』の方から持ちかけてきた。国境を越える時点でね」

そういや、お前らどうやって国境を越えてきたんだよ。

令月も言ってたが、国境の警備強化しても、本当に効果なかったんだな。

「まぁ、俺はハナから作戦なんて興味なくて、『八千代』との一騎討ちで殺すつもりだったから、『玉響』の作戦は即却下した」

「…」

…『玉響』君。会ったことはないが、気の毒に。

「でも今から思えば、俺が意地を張って『八千代』とタイマン仕掛けるより、最初から『玉響』の作戦に乗ってた方が、確実に任務は果たせただろうねー」

…何?

「悔しいからあんまり言いたくないけど、『玉響』の作戦は堅実で、それだけに完璧だったから」

堅実な作戦…。

奇策を用いられるより、余程厄介だ。

そうか。その『玉響』とやらは、すぐりと違って、令月に因縁がない。

だから、確実な方法を取ろうとしたのか。

で、俺達にとってもっとも堅実で、嫌な作戦と言ったら…。

「大体想像ついてると思うけど、『玉響』の作戦は、『生徒を人質に取る』ことだった」

…だよな。

それが一番、俺達にとっては確実で…一番嫌いな作戦だ。

「人質の数は、そう多くなくて良い。まずは校舎内の、一階の隅っこの教室を奇襲して、占拠する」

わざわざ一階の端の教室を選ぶのは、教室の外から…つまり、両隣の教室や、階下からの横槍を警戒してのことか。

全く堅実な作戦だ。

「あとは簡単。生徒を全員人質に取って、『八千代』を呼び出す。勿論丸腰でね。交渉は一切受けない。人質の数にもよるけど、こちらの指示に従わなければ、インターバル一分で一人ずつ殺す」

「…」

一分以内に、令月を連れてこさせる。

一分以内に、令月を殺させる。

それが終われば今度は、一分以内に脱出する。

こちらが躊躇って、一分の期限を過ぎれば、容赦なく一人ずつ殺す。

「人質の生徒が少なかったら、殺す代わりに指を一本ずつ切り落とすつもりだった。子供相手なら、それだけでも充分効果があるだろうからね」

…そうだろうよ。

胸糞悪い。

本当にそんな方法で殺しに来られたら、俺達もどうしたら良いか分からなかったろうな。

暗殺者の彼らは、人質の子供を殺すことに躊躇いはしない。

令月を差し出さなければ、容赦なく生徒の命が奪われていただろう。

そういう意味では、すぐりが『玉響』の作戦を却下し、令月との一騎討ちを選んでくれたことは、幸いだったのかもしれない。

それはそれで令月が死にかけてたから、良くないけどな。

「…って言うのが、『玉響』の考えた作戦だった。ま、堅実だから、誰でも考えつく作戦だけどね」

「…そうか」

私怨がない。故に堅実。

一番厄介なタイプだ。

「…とはいえ、それはあの時点での作戦だ。俺が寝返ってこちら側についた以上、別の作戦を考えてる可能性は、じゅーぶんあると思うよ」

「…だな」

「『玉響』との付き合いはほんの数日程度だから、俺は『玉響』がどういう性格なのかは知らないけど…。それでも、一応『終日組』の一人。舐めてかかると危ないと思うよ?」

笑顔で言うことじゃねぇだろ。

「お前、自分の命狙われてるの分かってるか?」

「え?」

「『アメノミコト』は、裏切り者を許さないんだろ?今のお前は令月と同じく、粛清対象の裏切り者なんだぞ」

「あー。そういえばそうなんだったー」

軽いな。

自覚してなかったのかよ。

「まー『玉響』が何処まで考えてるかだよね。あくまで任務である『八千代』の抹殺だけを優先するか、ついでに俺の首も獲ることも考えてるか」

「あなたが裏切ったことを報告しに、一度ジャマ王国に帰国している可能性は?」

と、尋ねるイレース。

「それも勿論あるねー。でもまー、最近国境の警備がちょっと厳しいから、わざわざ危険を犯してまで帰国するかは怪しいけど」

…あれだけ警備強化しても、「ちょっと厳しい」程度かよ。

どうすれば良いんだ。本当に令月の言う通り、国境沿いに塀を建てたら良いのか?

それでも平気で登ってきそうだから怖いよ。