ミラルカは真っ直ぐ屋敷の庭園へ向かった。

 ベッカー侯爵領は自然豊かなことで有名だ。侯爵家の庭園にも花や木々がたくさん植えられ、季節を感じることができる。ミラルカは慣れ親しんだこの庭園が大のお気に入りだった。

 しかし勿体無いことに、現当主ネリウス侯爵は人付き合いが悪く、屋敷で舞踏会を催すこともなければ茶会も、貴族の男達を招いてシガレットを楽しむこともない。

 それゆえ、この庭園はもっぱら屋敷の従者たちが楽しむだけとなっていた。

 ミラルカは梯子(はしご)の上で木の枝を切っているファビオを見つけた。

「ファビオ」

 声を掛けると、ファビオは手を止めて振り返った。視線の下にいるミラルカを見つけてにこりと笑った。

 ファビオは屋敷で一番年若の従者だ。

 まだ若いが、父が木こりをしているため知識もあり、ミラルカの推薦もあって雇用された。

 優しい性格で、屋敷の従者の中では一番人当たりがいい。

「ミラルカさん、どうしたんですか?」

「ちょっと相談があるの。この間屋敷に女の子が来たでしょう? その子に庭を案内してあげてくれない?」

「ええ!? 僕が会うんですか!?」

 ファビオは驚き、慌てて梯子から降りてきた。

「そう。彼女にお庭を見せてあげたいの」

「でも僕なんかでいいんですかね。なんだか訳ありだって聞きましたよ。余計に嫌になったりしませんか」

「そんなことないわ。普通にしててくれたらいいから。あ、触るのはダメよ。怖がるから」

「そうですか……うん。じゃあ、頑張ってみます」

「決まりね。今日はお天気がいいから、午後にでも連れて来るわ」

 ファビオに告げた後、ミラルカは再び部屋に戻って少女に話した。

 それから知っている限りファビオの事を伝えた。少女は少しでもファビオを理解しようと思ったのか、一生懸命に聞いていた。