書斎で仕事をしていたネリウスは、聞き慣れた足音がして手を止めた。誰が来るかはすぐに分かった。

 歩くスピードが早い。こんな時は何か色々言われるに決まっている。

 扉の方を向くと同時に扉が開いた。入って来たのはミラルカだ。

「お前はノックの仕方も忘れたのか?」

 苦言を呈すネリウスを無視しミラルカはズカズカと踏み込んだ。

「旦那様、この中からエル様に似合いそうなものを選んでください。今すぐ」

 ミラルカは突然肩幅ほどの大きさの箱を書斎机の上にどんと置いた。中には山程宝石が詰まっている。

 考えるまでもない。ネリウスはすぐに察した。

 ミラルカは自分が宝石の類に興味がないことは知っている。それで他所行きの派手な宝石を持って来たということは、これはエルが社交界につけて行く用だ。ミラルカが考えそうなことだ。

「考えてやるからあっちのテーブルに置け。仕事の書類の上に置くな」

 指示するとミラルカは別のテーブルの上にテキパキと宝石を並べていった。カラフルな宝石が並んでいて、目がチカチカしそうだ。

 ネリウスはその中からエルのイメージに似合うものをいくつか選んだ。

 エルは色が白いからなんでも似合うだろうが、あまり華美なものは彼女の美しさを邪魔するだけだ。シンプルなもので、大きくない方がいい。

 そう思って、爪の大きさほどのエメラルドが埋め込まれたネックレスを選んだ。エルの瞳の色ともよく合うはずだ。

「さすが旦那様。エル様のこととなると仕事が早いですね」

「ごちゃごちゃ言わずにさっさと金を払ってこい。下で待たせているんだろう」

「もちろんです。あ、これは必ず旦那様からお渡しになってくださいね!」

 ミラルカは言うだけ言うと宝石をかき集めてさっさと扉を閉めて出ていってしまった。

「勝手なことを……」

 そう思いながら、先程の宝石を身につけたエルを想像した。それを身につけて自分の横に立つ姿も。

 似合うのは想像するまでもない。だが、エルは喜んでくれるだろうか。

 質素な生活をさせているつもりはないが、エルは普段からドレスも飾りもなるべく派手でないものを選ぶ傾向にある。目立ちたがりではないし、控えめな性格だ。嫌だとは言わないだろうが、遠慮してつけないことも十分考えられた。

 そのあと、ミラルカが先ほど宝石商から買ったネックレスが入った箱を持ってきた。そしてあれこれいらないアドバイスをして、満足げに部屋を出て行った。