それからエルは、ネリウスが渡してくれた本を必死に読んで勉強した。

 分からない箇所はミラルカやヒュークに聞きながら、読み書きを覚えた。

 本を読めるようになるのにそう時間は掛からなかった。ミラルカ達の教え方がいいせいだろう。あとは、ネリウスに褒められたかったからだ。

「それにしても、凄い上達ぶりですね。最初はまったく読めなかったのに……。エル様はきっと頭がいいんだわ。もうこの本を読む必要もないわね」

 ミラルカがそう言ったので、エルはネリウスが選んでくれた本を思わずぎゅっと抱き締めた。

 これは、ネリウス様が選んでくれた本。そう思うと、大事にしたくなった。

 そんなエルを見て、ミラルカはにっこりと微笑む。

「じゃあ、次はもっと難しい本を勉強しましょうね。そしたらまた旦那様にお手紙が書けるわ」



 エルは毎日図書室に行くようになり、読み書きを勉強した。勉強は楽しくて、本を読むといろんなことが知れて面白かった。今まで暗い部屋の中にいたせいかもしれない。

 それに、ここに来ればまたネリウスに会えるのでは────そんな気持ちになった。

 お礼の手紙を書いたが、ネリウスからの返事はない。少し寂しいが、それでもネリウスの親切は忘れなかった。

 少しでも早くいろんな言葉を覚えて、もっと上手に読み書きできるようになりたかった。

 エルの上達ぶりは目覚ましく、数年の間に図書室にある本のほとんどが読めるようになっていた。

 屋敷にいる間は何もすることがないため、ほとんどの時間を勉強に使うことが出来た。

 エルはあれ以来あまり会えないネリウスに出来るだけ手紙を書くようにした。 

 返事を返してくれることは稀で、素っ気ない。それでも、頭の中にはあの日優しくしてくれた誠実な男性がいた。