大学が終わり、帰り道を歩いていると、朝来た交番の前で彼女は立っていた。
僕は何も知らないです、という風に彼女の前を通り過ぎようとするが、やはり呼び止められた。
『蒼太!』
『……僕に何か用ですか』
『え、あ、用っていうか』
『…今更なんだって言うんだよ』
早く彼女との会話を終わらせたくて、つい口調が荒くなる。彼女は言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。
『私、カメラ始めてみたの、蒼太の為に』
『…は?』

僕はその言葉の意味が分からなかったし、早く退屈な日常に戻りたくてしょうがなかった。
『凛花、もう僕に関わらないで』
そう言って僕はまた彼女のことを拒絶した。彼女は何か言いたそうな表情だったが、
『私、待ってるから』
とだけ言い残し、交番の前から去っていった。

待ってる?何を?
僕に何を期待している?
小さくなっていく彼女の背中を見つめながら、僕はまた深く溜息をついた。