僕達が海に着いたのは、お昼をとっくに過ぎた頃だった。幸い、あれから雨が降ることも無く、晴れ間が広がっている。
海に着いた頃には、僕達は汗だくになっていた。海は心地よい風が吹き、僕たちを優しく包みこんでくれるようだった。
繋いだ手から、彼女の緊張が伝わってくる。やはり彼女も僕と同じで怖いのだろう。
『凛花、大丈夫だよ。僕はもう、逃げたりしない』
海を見ながら、そう言った。彼女も海を見ながら、微笑んでいた。
『うん。蒼太が居るから大丈夫』
彼女は、彼女の首にかかっていたカメラを僕に手渡した。
『これ、蒼太にあげるよ。私は才能無かったからね、えへへ』
『でも…いいの?』
『蒼太のカメラは、捨てちゃった?』
『いや、捨ててないけど…』
『けど、怖くて触れてないんでしょう?私には分かっちゃうぞ〜』
図星をつかれた。
『また蒼太が始めてくれる気になったら、あげようと思ってたの。だから、はい、受け取って』
彼女はどこまでも僕のことを考えてくれていた。
僕は彼女のことを避けて、酷いことだって言ってきたのに。
彼女は、僕のことをずっとずっと待ってくれていた。また僕に、カメラと彼女自身を、取り戻させようと頑張ってくれた。
僕は、胸と目頭が熱くなるのを感じた。
『あれ、日が暮れてきちゃったね、来るのが遅かったか』
彼女は微かにオレンジ色になってきている景色を見て言う。
彼女は、変わらず海を見つめていた。
夕日に栗毛色のふわふわした髪の毛が反射してキラキラと光る。
長い睫毛に小さい唇。
どこまでも見透かしてるかのような、濁りの無い瞳。
汚したどころか、むしろどんどん綺麗になっていく彼女。そんな彼女の姿を僕はずっと見ていたいと思った。
そして、心の底から撮りたい、という気持ちに駆られた。
こんな感情、いつぶりだろうか。
『夕日も風情があっていいね。それじゃあ、凛花、撮るよ』
『えっ、あっ、もう撮るの!?やっぱり少し照れちゃうんだよなあ〜、カメラ向けられると緊張しちゃう』
『大丈夫、普段通りの凛花が、1番綺麗だよ。何もしなくていい、そのままの凛花を僕に見せて』
『…蒼太ってさ、たまに恥ずかしいこともサラッと言えちゃうよね…』
彼女は頬を少し赤らめながら、目線をまた海に戻す。そして気持ちよさそうに目を瞑り、深呼吸した。
僕はその表情ひとつひとつを逃すまいと、シャッターを切る。
『…綺麗だ、凄く』
『蒼太、また泣いてるの?私より泣き虫だなあ〜』
そんなことを言いながら2人で笑い合う。
屈辱的な出来事があった場所で、綺麗な思い出が一瞬一瞬塗り重ねられていく。
彼女によって彼女のことが、海が、青空が、そして嫌いだった雨空が。どんどん好きになっていく。綺麗だと思えてくる。
モノクロの世界なんて、そこにはもう無かった。
『今度はここにカメラ置いて、2人で写真に写ろうよ!蒼太くんのカメラ復活記念にね』
『何それ、僕も一緒に映るの?僕は撮る専門なんだけど』
『口答えしない、さあはやく、こっち来て!』
2人で写真を撮り終わった後、凛花は僕に、
『また色々な所に一緒に行こう。行ったことがある場所にも、まだ2人で行ったことない場所にも』
と言った。僕はうん、とだけ返し彼女に優しくハグをした。
彼女は最初驚いて、
『ちょっと蒼太!?いきなり何!?』
と僕の腕の中で暴れていたが、しばらくすると、彼女の手が僕の背中に伸びてきて、ギュッ、とハグをし返してくれた。
『さ、暗くなる前に帰ろうか』
『うん、帰ろう』
夕日と海を背中にし、僕達は手を繋いでゆっくりと歩き出した。
僕の見る世界が、心が、またキラキラと輝き出していた。
海に着いた頃には、僕達は汗だくになっていた。海は心地よい風が吹き、僕たちを優しく包みこんでくれるようだった。
繋いだ手から、彼女の緊張が伝わってくる。やはり彼女も僕と同じで怖いのだろう。
『凛花、大丈夫だよ。僕はもう、逃げたりしない』
海を見ながら、そう言った。彼女も海を見ながら、微笑んでいた。
『うん。蒼太が居るから大丈夫』
彼女は、彼女の首にかかっていたカメラを僕に手渡した。
『これ、蒼太にあげるよ。私は才能無かったからね、えへへ』
『でも…いいの?』
『蒼太のカメラは、捨てちゃった?』
『いや、捨ててないけど…』
『けど、怖くて触れてないんでしょう?私には分かっちゃうぞ〜』
図星をつかれた。
『また蒼太が始めてくれる気になったら、あげようと思ってたの。だから、はい、受け取って』
彼女はどこまでも僕のことを考えてくれていた。
僕は彼女のことを避けて、酷いことだって言ってきたのに。
彼女は、僕のことをずっとずっと待ってくれていた。また僕に、カメラと彼女自身を、取り戻させようと頑張ってくれた。
僕は、胸と目頭が熱くなるのを感じた。
『あれ、日が暮れてきちゃったね、来るのが遅かったか』
彼女は微かにオレンジ色になってきている景色を見て言う。
彼女は、変わらず海を見つめていた。
夕日に栗毛色のふわふわした髪の毛が反射してキラキラと光る。
長い睫毛に小さい唇。
どこまでも見透かしてるかのような、濁りの無い瞳。
汚したどころか、むしろどんどん綺麗になっていく彼女。そんな彼女の姿を僕はずっと見ていたいと思った。
そして、心の底から撮りたい、という気持ちに駆られた。
こんな感情、いつぶりだろうか。
『夕日も風情があっていいね。それじゃあ、凛花、撮るよ』
『えっ、あっ、もう撮るの!?やっぱり少し照れちゃうんだよなあ〜、カメラ向けられると緊張しちゃう』
『大丈夫、普段通りの凛花が、1番綺麗だよ。何もしなくていい、そのままの凛花を僕に見せて』
『…蒼太ってさ、たまに恥ずかしいこともサラッと言えちゃうよね…』
彼女は頬を少し赤らめながら、目線をまた海に戻す。そして気持ちよさそうに目を瞑り、深呼吸した。
僕はその表情ひとつひとつを逃すまいと、シャッターを切る。
『…綺麗だ、凄く』
『蒼太、また泣いてるの?私より泣き虫だなあ〜』
そんなことを言いながら2人で笑い合う。
屈辱的な出来事があった場所で、綺麗な思い出が一瞬一瞬塗り重ねられていく。
彼女によって彼女のことが、海が、青空が、そして嫌いだった雨空が。どんどん好きになっていく。綺麗だと思えてくる。
モノクロの世界なんて、そこにはもう無かった。
『今度はここにカメラ置いて、2人で写真に写ろうよ!蒼太くんのカメラ復活記念にね』
『何それ、僕も一緒に映るの?僕は撮る専門なんだけど』
『口答えしない、さあはやく、こっち来て!』
2人で写真を撮り終わった後、凛花は僕に、
『また色々な所に一緒に行こう。行ったことがある場所にも、まだ2人で行ったことない場所にも』
と言った。僕はうん、とだけ返し彼女に優しくハグをした。
彼女は最初驚いて、
『ちょっと蒼太!?いきなり何!?』
と僕の腕の中で暴れていたが、しばらくすると、彼女の手が僕の背中に伸びてきて、ギュッ、とハグをし返してくれた。
『さ、暗くなる前に帰ろうか』
『うん、帰ろう』
夕日と海を背中にし、僕達は手を繋いでゆっくりと歩き出した。
僕の見る世界が、心が、またキラキラと輝き出していた。
