パラサイト -Bring-

「紅馬くん、ダメ…!」
「……チッ」
万由子に制されて、手を離した。その瞬間、すぐにしまったと思った。これが弱みになってしまうと思った。
もう、言わなくても分かるほど、いい顔をしていた。清々しいくらいの笑みだ。
「…揺すれよ」
「喜んで❤︎」
「紅馬くんっ」
「大丈夫だ」
こうなってしまった以上、万由子は巻き込まない。これだけでも守らなければいけないと思った。尻拭いくらいはしなければ。
「遥さん、取引しない?」
そう言い出したのは万由子だった。
「取引?別にいいけど」
「おいっ…」
「大丈夫。私に任せて」
ウィンクをした万由子は、ゆっくりとそいつの…もとい、遥へ近づいた。
「明日から一週間、どっちが紅馬くんとより仲良くなれるか」
「へえ…」
「紅馬くんとより仲良くなれたら、恋人になれる。仲良くなれなきゃ…」
「恋人候補でガマン、ってことね?」
「そういうこと。いいよね?」
「誰がジャッジするんだ?」
「「紅馬くんに決まってるでしょ!!」」
ふたりして言わなくたっていいんじゃないか。そう思ったのは、俺だけの秘密だ。


この後もなにか話し合いをしていたが、要はこういうことだ。
一週間の間で、俺と話したり遊んだりして好感度を上げる。ただし、無理やりどこかへ連れて行ったりはせずに、あくまで友達としてできる範囲内での接触でのみ。
まあ、勝負をする必要もないとは思った。結果は分かりきってるし、そんなことに時間を割きたくなかった。それに、本を読むのに、周りでそんなことをされていては、気が散って仕方ないだろう。
「それじゃ、明日からだね」
「楽しみだね!紅馬クンをもらうの」
本当なら、ここで俺が止めるのが最適解だったのかもしれない。さっき、一度話し合いをやめさせようとしたが、ふたりしてまた止められてしまった。これが女の戦いとかいうやつだろうか。仮にそうなら、結構ドロドロしているものだと思った。
実を言うと、今まで異性と話したことは肉親以外にはほとんどない。関わる必要がなかったし、変に気を遣ってしまうのが分かってから、関わるのは学校の授業とかくらいだった。だから、男子校に行きたかった気持ちもあったが、お金がないという理由で断念した。残りの半分くらいは、お袋から無難に生きていくのが一番いいんだよ、と教えられてきたから、それもあるのかもしれない。
何にせよ、目の前で好きな人が争っているのを見ると、やるせなさを感じた。
—いつか、万由子にもそう思ってもらえる日が来たら。
叶わないと思っていたが。


「じゃあ、決まりね」
「楽しみだね!紅馬クン、早くおいでよ〜」
「断る」
「冷たいネ❤︎」
「(恐ろしいやつだな…)」
再三言うが、俺はこいつの元に行く気はないし、そんな想像もしたくない。だから、事実上は俺にとってメリットだらけの時間になるというわけだ。一週間は万由子から今まで以上に関わってくれそうだし、それに俺は応える形で接すればいいと思った。それに、遥も問題ない。業務の如くあしらえばいいだろうと考えたからだ。