暴れていた男子生徒は、あのあとすぐに気を失ったため、近くの診療所に預けた。一時的に強大な力を引き出すもののように思えたが、本当のことは分からない。もしかすると、何かで媒介してああなったのかもしれない。
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
「うん?」
「あの時、何したんだ?」
「…分かんない」
「え?」
「体が勝手に動いたって感じ。そうしなきゃって思って」
万由子はいつものように笑っていたが、無理しているのは分かりやすかった。それもそうだ。目の前で人が殴られたり、気絶したりしたんだ。よほどの運がない限り、そんな場面には出逢わないだろう。
…こんなことが起きると思っていなかったから、万由子との時間がまともに過ごせず、残念な気持ちになった自分がいた。さすがに腹が立った。なぜこんな時にもなって、自分のことばかり考えてる俺自身が嫌になった。
「なにか悩んでるでしょ」
「…え?」
「顔、疲れてる」
「そんなことはない…はず」
「ねえ、今日もうちに来ない?」
「いや、今日は遠慮しておくよ」
こんな状態で行っても、迷惑にしかならないと思った。俺なら、敬遠してしまうかもしれない。
「家まで送ったら、そのまま帰るよ」
「じゃあ、送ってく!」
「意味がないだろ」
「あっ…」
「また次の機会に頼む」
「それじゃ、今日はエスコートよろしくね?」
「…分かった。文句はナシだ」
「ケチっ」
「ナシだって」
こうして笑わせてくれるところ、好きだな。これは…一目惚れがなくても、俺は惚れてたかもしれない。
「紅馬くん、私も聞いていい?」
「ん?」
「紅馬くんの一番って、なに?」
「は?」
「一番大事なものとか、一番好きなものとか」
「…特に思いつかないかも」
「ええ?本当に?」
—万由子ちゃん、元気かな。
遥が言った。たぶん、元気であってほしいという願望もあったのではないかと思う。俺もそんな冗談を言えたら。いや、違う。
—こんなに晴れてるんだ、きっと元気だろ。
—これまたテキトーだね?
一人暮らしを再開してから七年経つとは言え、悲しみが消えるわけではない。ふと思い出すこともあるし、戻りたいと願ったこともある。
ただ、いくらそうしたところで何も変わらないのが目に見えてる。だから必要以上に喚いたりしないだけ。これは俺以外も似たようなものだとは思うが。それに、もし逆の立場だったら?万由子なら、強く強く生きようとしたはずだ。
—ま、いいや。ゆっくり行こうよ。
遥も何も分からない子供じゃない。心情を察することくらいはできる。むしろ、得意なはずだ。協調性というか、共感力というか。だから、カーストの中から抜け出してきたんだと思う。
—なあ、遥。
—なに?
—急に人格が変わるって、あると思うか?
—まだ気にしてるの?
あの日のことを境に、一時的な人格の変化があるのかもしれないとか、色々調べたが、何も出てこなかった。
—諦めたくはなかったけどな。
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
「うん?」
「あの時、何したんだ?」
「…分かんない」
「え?」
「体が勝手に動いたって感じ。そうしなきゃって思って」
万由子はいつものように笑っていたが、無理しているのは分かりやすかった。それもそうだ。目の前で人が殴られたり、気絶したりしたんだ。よほどの運がない限り、そんな場面には出逢わないだろう。
…こんなことが起きると思っていなかったから、万由子との時間がまともに過ごせず、残念な気持ちになった自分がいた。さすがに腹が立った。なぜこんな時にもなって、自分のことばかり考えてる俺自身が嫌になった。
「なにか悩んでるでしょ」
「…え?」
「顔、疲れてる」
「そんなことはない…はず」
「ねえ、今日もうちに来ない?」
「いや、今日は遠慮しておくよ」
こんな状態で行っても、迷惑にしかならないと思った。俺なら、敬遠してしまうかもしれない。
「家まで送ったら、そのまま帰るよ」
「じゃあ、送ってく!」
「意味がないだろ」
「あっ…」
「また次の機会に頼む」
「それじゃ、今日はエスコートよろしくね?」
「…分かった。文句はナシだ」
「ケチっ」
「ナシだって」
こうして笑わせてくれるところ、好きだな。これは…一目惚れがなくても、俺は惚れてたかもしれない。
「紅馬くん、私も聞いていい?」
「ん?」
「紅馬くんの一番って、なに?」
「は?」
「一番大事なものとか、一番好きなものとか」
「…特に思いつかないかも」
「ええ?本当に?」
—万由子ちゃん、元気かな。
遥が言った。たぶん、元気であってほしいという願望もあったのではないかと思う。俺もそんな冗談を言えたら。いや、違う。
—こんなに晴れてるんだ、きっと元気だろ。
—これまたテキトーだね?
一人暮らしを再開してから七年経つとは言え、悲しみが消えるわけではない。ふと思い出すこともあるし、戻りたいと願ったこともある。
ただ、いくらそうしたところで何も変わらないのが目に見えてる。だから必要以上に喚いたりしないだけ。これは俺以外も似たようなものだとは思うが。それに、もし逆の立場だったら?万由子なら、強く強く生きようとしたはずだ。
—ま、いいや。ゆっくり行こうよ。
遥も何も分からない子供じゃない。心情を察することくらいはできる。むしろ、得意なはずだ。協調性というか、共感力というか。だから、カーストの中から抜け出してきたんだと思う。
—なあ、遥。
—なに?
—急に人格が変わるって、あると思うか?
—まだ気にしてるの?
あの日のことを境に、一時的な人格の変化があるのかもしれないとか、色々調べたが、何も出てこなかった。
—諦めたくはなかったけどな。


