西日が眩しくなり、空も赤くなってきた頃。俺と万由子はベンチに腰掛けながら、アイスを食べていた。熱い空気に負けない冷たさは、気持ちも落ち着かせてくれた。
時刻としては、一緒に帰ったあの日とそう変わらないが、日の入りが長くなったからかあの頃よりまだ明るい気がした。
「美味しい〜っ!」
「このアイス、懐かしいな。小さい頃よく食べた」
「そういえば。どこかで見たって思ったら。お祭りの時にあったっけ」
「あったな。シャーベットが隣に置いてあった」
「あったあった!どこでも同じなんだね」
「らしいな。小銭を握りしめて向かってたっけ」
「懐かしい〜!余ったお金、大事に取ってた!」
「同じだ」
生まれも育ちも違うのに、同じ景色を見てきたみたいだった。そのせいか、話しててとても楽しかった。もっと話したい、もっと知りたい、もっともっと…欲がどんどん溢れ出てきそうなほどだった。
その時、近くで異質な騒ぎがあった。悪い知らせが飛んできそうな声が散っていた。大人に任せるのが最適解なのだろうが、好奇心と自分が何とかしたいという勝手な責任感が入り混じっていた。出しゃばるタイプではないが、こんなよく分からない感情のまま向かって、もし最悪の事態になっていればどうしただろう。少し考えて事実を確かめるという口実が思い浮かんだ。だから、その名目で見に行こうと思った。
「行ってくる」
「待って!」
「え?」
「…分かった、急ごう」
野次馬をかき分けて覗いてみると、男子生徒ふたりが向かい合って、紅のそれを輝かせていた。
一目見て、ただの対立じゃないことは分かった。ひとりは一方的に殴られ、ひとりは狂気的な目をしていた。そして後者は、通常の人間ではあり得ないほどの汗を流していた。
「おい、何があった?」
「ゲホッ……い、いきなり、おかしく…なって」
見ると、獣のような挙動だった。本能に従い口は開けたまま、背中を丸くし、いつでも戦える体制。どんな薬を使ったって、こんなことにはならないだろう。
「う……あぁ……が、ぁ…」
「とにかく、離れよう」
「紅馬くん、いったい…」
「みんな、いったん遠くへ離れてくれるか」
俺の声に合わせて、野次馬はみんな走っていく。残ったのは、暴力を受けた男子と、俺と万由子と、狂気的な男子。
話が通じる…ことはなさそうだ。だが、どうすれば?
「ねえ、キミ」
「…っ、危ないぞ」
「まだ、ここにいたいの?」
「ここはキミのいるべき場所じゃないよ」
「キミのおうちは、ずっと上」
「いつか会えたらいいね」
何をしているのか分からなかった。ただ語りかけているだけなのに、神秘的で、怖いとすら思えるほどの……
時刻としては、一緒に帰ったあの日とそう変わらないが、日の入りが長くなったからかあの頃よりまだ明るい気がした。
「美味しい〜っ!」
「このアイス、懐かしいな。小さい頃よく食べた」
「そういえば。どこかで見たって思ったら。お祭りの時にあったっけ」
「あったな。シャーベットが隣に置いてあった」
「あったあった!どこでも同じなんだね」
「らしいな。小銭を握りしめて向かってたっけ」
「懐かしい〜!余ったお金、大事に取ってた!」
「同じだ」
生まれも育ちも違うのに、同じ景色を見てきたみたいだった。そのせいか、話しててとても楽しかった。もっと話したい、もっと知りたい、もっともっと…欲がどんどん溢れ出てきそうなほどだった。
その時、近くで異質な騒ぎがあった。悪い知らせが飛んできそうな声が散っていた。大人に任せるのが最適解なのだろうが、好奇心と自分が何とかしたいという勝手な責任感が入り混じっていた。出しゃばるタイプではないが、こんなよく分からない感情のまま向かって、もし最悪の事態になっていればどうしただろう。少し考えて事実を確かめるという口実が思い浮かんだ。だから、その名目で見に行こうと思った。
「行ってくる」
「待って!」
「え?」
「…分かった、急ごう」
野次馬をかき分けて覗いてみると、男子生徒ふたりが向かい合って、紅のそれを輝かせていた。
一目見て、ただの対立じゃないことは分かった。ひとりは一方的に殴られ、ひとりは狂気的な目をしていた。そして後者は、通常の人間ではあり得ないほどの汗を流していた。
「おい、何があった?」
「ゲホッ……い、いきなり、おかしく…なって」
見ると、獣のような挙動だった。本能に従い口は開けたまま、背中を丸くし、いつでも戦える体制。どんな薬を使ったって、こんなことにはならないだろう。
「う……あぁ……が、ぁ…」
「とにかく、離れよう」
「紅馬くん、いったい…」
「みんな、いったん遠くへ離れてくれるか」
俺の声に合わせて、野次馬はみんな走っていく。残ったのは、暴力を受けた男子と、俺と万由子と、狂気的な男子。
話が通じる…ことはなさそうだ。だが、どうすれば?
「ねえ、キミ」
「…っ、危ないぞ」
「まだ、ここにいたいの?」
「ここはキミのいるべき場所じゃないよ」
「キミのおうちは、ずっと上」
「いつか会えたらいいね」
何をしているのか分からなかった。ただ語りかけているだけなのに、神秘的で、怖いとすら思えるほどの……


