小高い丘の上。
彼女は四角い建物の窓から街を見下ろし、泣きそうな、消えてしまいそうな声で呟いた。

「街の灯りの数は、幸せの数と同じ。幸せが増れば、世界は明るく照らされる」

それは彼女の口癖だった。
常に人の幸せを願い、その為なら命すら賭けられる。
彼女に照らされた人々は数え切れないだろう。
僕もその一人。

「もう少しだけでいいから、照らされていたかったかな。なんて、わがままだね。私は」

でも彼女は、僕と肩を並べてくれた。
好きだと言ってくれた。
そしてあの日、月本陽奈乃は幸せとの別れを惜しむ様に、眠る様に、ゆっくりと夜に昇って行った。