僕は声も出せずに後ずさった。

声はそれらから聞こえている。

犬猫の鳴き声、
赤ちゃんの泣き声、
女の子男の子の声、
女の人男の人の声、
おばあちゃんおじいちゃんの声……

それが混ざっていて、もう、何を言っているのかなんてわからない。

「あ…あ……」

僕はもう怖さしかなくて、前を向き、全速力で地下道を走り抜けた。


それからしばらくはもう、どんなに時間をずらしていても地下道には近寄れなくて、少し遠回りして学校に通っていた。

そしてまたしばらくして…

「あれ……?」

《地下道 工事のお知らせ》


………

友達と歩く、工事をしたばかりの朝の地下道。

「明るくなったよな〜!」

「絵まで描いてある!」

電灯は多く明るくなって、壁も塗り替えられた、明るい地下道。

「あ、ドアだ!!」

ドキッ……

僕は一瞬あの時のことを、映像でも見るようにハッキリと思い出した。

僕たちの目の前には、あの黒い扉…

でも、この前のような嫌な感じはしなかった。
変な音も声も聞こえては来ない。


人が集まる場所は『思念』が集まる場所なんだという。
地下道は人の行き交う場所。

もしかして何年か経ったら、あの時みたいに影たちが集まるのかもしれない。
あの影が、ここを通るたくさんの人の想いだったのなら、この、人の行き交う地下道には、また……