最強の男からの溺愛

「戻りました」

庭のすぐ隣の玄関から誉の声がする。

「蜜映さんはどこにいます?」

私が西園寺家にいる間彼を誉様と呼ぶように、父の目を避けるように私を蜜映さんと呼ぶ。

鈍いもやもやが、呼ばれるたびに広がる。

蜜映さん、と呼ぶ声はいつも蜜映と呼ぶときよりも平坦で汲み取れない。

「庭の方かと」

そんな答えに、迷うことなく庭に来る。

「蜜映さん、ただいま」

「誉様、おかえりなさい。今日も、怪我はないみたいですね」

「まぁね、何もなかった?」

少し、心配そうな声色が滲む。

「何にもなかったっすよ、俺とおしゃべりして時間潰してました。北宮様が来たなら俺はこれで」

「ああ、ありがとう」

和成が屋敷の奥へ入っていく。