惡ガキノ蕾 二幕

    ~自分 不器用な女ですから~
「そこ!はなみ、しっかり引っ張って!」
「えっ?どこ?──あ……」
 目の前で醜く歪んだ壁紙が、あたしの不器用さを見事に具現化していた。
   
   クロス貼り
     何度やっても
       シワが寄る
              はなみ

 只今、深夜2時。
 廃材の片付けを始めた時から数えると、10時頃スタ-トしたとして──ざっと14時間が経過している。未《いま》だ終わりは見えて来ない。
「あ-、もう、はな!何やってんの。やる気ある?」
「…あります」
 不思議だ。自分の意思とは関係無く、口から出る言葉は敬語に変換されていく。
 この時間になって壁、座敷、大きな棚など主だった所は新築同様に生まれ変わって、内装はもう仕上げの段階。奥では双葉と優が夏美さんと一緒に飾り付け用の小物を用意していて、其処にあたしの出る幕は無い。
 男達…一樹と力也と海斗は、太一のおじいちゃんが何処《どこか》から借りてきてくれたトラックに廃材やゴミを積んでいる。──それにしても凄かった。初めて一樹達の働いている処を見たけど、あたし達が手を出すタイミングが見付からない程、終始、無駄の無い手付きで、見るゝ間に壊れた風林屋は生まれ変わって行ったのだった。
 買って来た材料を運んだのも一樹と力也と海斗の三人だけで、使えなくなった椅子やテ-ブルなどのゴミも勿論、あたしを含めた女達は一つとして運んじゃいない。炎天下の中、砂浜を何往復も疲れた素振りひとつ見せずに働く一樹達は、ちょっとだけ、ほんのちょ-っとだけではあるけれど、カッコ良くもあったのだ。太一とだんごだってそう。太一に怒鳴られながら動き回っているだんごにしたって、あたしから見たら、もう立派な大工さんだった。顔さえ見なきゃ、同級生だという事も忘れてしまいそうな位。そして又、言うまでも無いが、其処にもあたしの出る幕は無かった。
 そんなこんなで、消去法から瑠花の手伝いにはあたしが付いてる訳なんだけど、これが──まあ、その…何て言ったらいいか…まあ…。
「あ-、じゃあそこは後でわたしが直すから。次、ちょっとこっち来てこれ持ってて」
「はい」
「いい?持ってるだけだから、そんなに力入れなくても──」
「ビリリリリリリッ」
 ………。
 多分…そう多分ではあるけれど、今あたしが手にしている物は、瑠花が注意しようとしていた事が現実となった結果で、そして多分だけど、その事で現在瑠花は怒っている。いや、怒ってらっしゃる状態であられると予想される。
 只今深夜2時。草木も眠る丑三つ時。繰り返す、誰の所為だか、未だ終わりは見えない。