その不毛な土地にはろくに草木も生えなかった。
日照りばかりで、やっと雨が降っても荒れ続き。
わずかな食料を奪い合い、その地の者たちの心は荒れていた。

その土地の最も荒れた場所に、ある男がたった一人で住んでいた。
時に盗みをし、少しまともに稼いだ金もすぐに酒に変わっていた。

酒呑みの男は、たまにたらふく酒を飲んでは相手を求めて彷徨い歩いた。
だが、誰からも愛されることなく、心が満たされることはなかった。


ある時、男の住む荒れ小屋のすぐそばに、小さな花が咲いた。
名もなきその花は小さ過ぎた。
だが、その小さな花すらもこの地では希少。咲いたのは奇跡のようなものだった。

「ちっ…喰えそうならその場で抜いて喰うが……なかなか良い見栄えじゃないか。花は抜いてしまえばそれで終わり。見た目に免じて勘弁してやるか…」

男はそう言い、そのままにしておいた。


ある日、男が帰ってくると、年若い娘がやってきた。

「こんばんは…。私は道に迷ってしまった者です…泊めていただけませんか…?」

「…泊めてやってもいいが…こんなボロ屋だ。それに、主は俺だからな。俺に従うなら構わない。」

男は酒に酔ったままそう言って、娘をまじまじと見た。
見た目からしても非力そうで儚げな印象の娘。

(なかなか見目の良い娘だ……この娘をここへ置いておけば少しは役に立つかもしれないな…こんな所を旅する娘だ…居なくなっても誰も気づきはしないだろう……)

男は娘を家に入れると言った。

「泊めてやるんだ、俺のすることに文句はないな…?」

「はい。ここに泊めて頂けるなら…」

男は凄んで娘に言った。

「ではしばらくここにいろ…!旅をしていようが関係ない!今逃げ出せないようにしてやる!」

酔いが回った男は娘の片足に頑丈で長い縄を付け、片方の結び目は近くの木に括り付けて逃げられないようにしてしまった。