金魚鉢

 警察から話を聞かれた後、私は兄に連れられて家に帰った。


 私はその間ずっと兄にひっついていた。

 私たちは会話一つせず、寄り添い合っていた。


 兄は家に着いてすぐ、私を部屋に運んでくれた。


 それから、兄もまた私のベッドに一緒に入り込むと、まるで自分が傷つけられたみたいな顔をして私の手首についた痣に視線を落とした。


「……お兄、私……」


「何も言うな」


 兄はそれだけを言うと、痣のついた手首に舌を這わせた。


 私の心臓はただひたすらに鼓動を繰り返していて。

 まるで耳元に心臓があるみたいだった。


「お兄、恥ずかしい……」


 優ちゃんに舐められたときは気持ち悪いだけだったのに。

 どうして兄に同じことをされてもそうは思わないんだろう。


 ううん、それよりもむしろ……。


「おい、俺だけを見ろ」


 兄のおでこと私のそれが合わさる。

 私は顔中が熱くなって、どうしようもなくて。


「ね、お兄、もう、やめて……」


 恥ずかしさから、声が震えた。


「琴葉。雪って呼べ」


「……ゆ……き」


「よし、良い子だ」


 兄は本当に嬉しそうな顔で笑うと、今度はいつになく真剣な眼差しをして、その綺麗な指先で私の顎を救った。


 兄の瞳に私の顔が映る。

 たぶん、私の瞳にも兄の顔が映っているんだろう。


 まるで永遠みたいな一瞬が過ぎると、私の唇を兄が奪っていた。


 びっくりして、腰が抜けそうになって。

 その度に、兄の射抜くような視線を感じて。


 私の世界はひっくり返った。


 その甘く疼く魅惑的な快楽に私は溺れそうになるも、そのぎりぎりのところで現実に戻った。


 こんなの駄目。

 だって、私たち……。