金魚鉢

「それに、きっと雪さんだって、いつか琴のことを見捨てるよ。だってもう大人でしょ、あの人。近い将来、誰かと結婚して新しい家族を作るんだよ。そしたら、ほら。琴のことなんて必要なくなるじゃないか」


 その言葉に、私は噛みついた。


「違うもん! お兄は私を見捨てたりなんかしない! どうしてそんな酷いことを言うの!!」


 だけど、彼はただ静に返すだけ。


 まるで全部を知っているかのように。

 まるで未来を見てきたみたいに。


「酷くないよ。だって僕は真実を言っているだけなんだから」


 優ちゃんは、澄み切った瞳でそう断言した。

 あまりにも危険なくらい、澄み渡った瞳で。


 だからなのかな。

 優ちゃんの言っていることが全部本当のような気がしてくるのは。


「……私が、おかしいの?」


 恐る恐るそう尋ねると、何の迷いもなく優ちゃんは頷いた。


「そうだよ、琴。だから、そうなる前に僕の手を取るべきじゃないか?」


 優ちゃんは、いつもの本当に優しい表情で私に手を差し伸べた。


 そうなんだ。

 私はいつか、一人になってしまうんだ。


 それなら、そうだよね。

 優ちゃんは優しいもん。


 一人ぼっちになってしまうくらいなら。

 お兄がどっか遠くに行っちゃうんなら。


 魔法のような甘美な優ちゃんの言葉に頷きそうになったとき、凄い衝撃音が扉のある方から聞こえてきた。