金魚鉢

「そっち、帰り道じゃないよ? どこに行くの?」

「琴と二人っきりになれる場所。誰の邪魔も入らないところ」

「ねぇ、優ちゃんやだ。私、家に帰りたい」

「どうしてそんなに悲しいことを言うの? 僕たち、もう三カ月も付き合っているのに、まだ何もしていないんだよ? 琴はそれで安心なの?」

「二人きりってそういうことなの? ねぇ、やめてよ。優ちゃん、待っていてくれるって言ってたじゃん」

「うん、でももう待てないんだ。だって、待てば待つほど、琴は僕のものじゃなくなっていくだろう?」

 そこから先は、いくら抵抗しても無駄だった。

 私の力では優ちゃんを振りほどくことなんて到底できなかった。
 説得をしようとしても、何の言葉も聞いてくれない。

 涙が視界を覆って、何が何だか分からなくなった。

 気が付いたときには、私は優ちゃんに押し倒されていた。

 そこら中がピンク色に染まった世界で。
 妙にふかふかのベッドが私を歓迎していて。

 私は心底、家に帰りたかった。

 呆然と現実を受け入れようとしている私に、優ちゃんがのしかかってくる。
 カーディガンが脱がされそうになって、私は意識を現実に引き戻した。

 暴れて、噛みついて。
 泣きじゃくりながら、抵抗した。

「こんなの優しい優ちゃんじゃないよ!」

 思わず私はそう叫んだ。
 すると、優ちゃんは異常なほど静かになって。

 それから、どこからか縄を取り出してきた。

 それを見た瞬間、私の顔は青ざめた。