金魚鉢

 黄昏時。
 私と優ちゃんは肩を並べて、住宅街を歩いていた。

「本当に送ってもらって良かったの?」

 優ちゃんが遠慮がちに問う。

 その表情は夕日に照らされ、影になっていた。

「うん、大丈夫。今日はありがとうね。お家にまで来てもらっちゃって」

「ううん、こっちこそお邪魔しちゃったね」

 何だか優ちゃんの声に引っかかりを感じて、私は足を止めた。

「……どうかした?」

 道の先で私を振り返る優ちゃん。

「ううん、何でもないけど」

 まるで優ちゃんは、私の知らない人になってしまったみたい。

 そう思うのは、この夕日のせい?
 赤く染まる世界と、長く伸びていく影のせい?

「優ちゃん、何だか怖い顔でもしているの?」

 腕に立った鳥肌を宥めながら、私はそう聞いた。

 だけど、優ちゃんは何も言わない。

 ただ、つかつかと私の方に戻ってくる。

 本能的に左足が一歩後ろに下がった。

 あ、と思ったときには優ちゃんがすぐそこにいた。

「ねぇ、いつも雪さんと一緒に寝ているの?」

「優ちゃん、急にどうしたの? ちょっと怖いよ」

「質問に答えて」

 じりじりと、私は壁に追いやられる。

 何も答えない私にしびれを切らしたのか、優ちゃんは勢いよく壁に両手を付いた。

 耳元で物凄い音がして、私は逃げ場を失った。

 右を見ても、左を見ても、優ちゃんの腕があって。
 正面からは優ちゃんが真っ直ぐに私のことを見つめていた。