金魚鉢

 リビングに優ちゃんを案内する。
 みんながテーブルに着席したのを見て、私は口を開いた。

「じゃあ、飲み物用意してくるね」

「いや、大丈夫。二人で居ろよ。俺が用意してくるから。優ちゃん、だっけ。何が良い?」

「あ、僕は何でも大丈夫なんですけど、琴の飲み物はミルクティーでお願いします。好きなんだよな、琴」

「うん、そうだけど」

「そんなことくらい知っているさ」

 兄はぶっきらぼうにそう言うと、ケーキの用意をしに、キッチンへと入って行った。

 さっきからなんだか不機嫌そうな兄のことが心配だった。

「ねぇ、優ちゃん」

「何?」

 にこにこと満面の笑みで私を見つめる優ちゃん。
 私はぐっと拳を握って、勇気を出した。

「あのね、もしお兄が何かしたんなら謝るから、仲良くして欲しいの」

「雪さん? 別に何もされてないよ?」

 顔色一つ変えることなく、優ちゃんはそう言いきった。

「それじゃあ、どうしてさっきから突っかかっていくの?」

「うーん、どっちかっていうと、雪さんの方が僕に突っかかってる気もするけどね。そんなことよりさ、僕、琴の部屋に行きたいな。ケーキ食べたら行っても良い?」

「あ、えっと、うーん」

 困っている私の前に、どん、とケーキが置かれた。
 慌てて顔を上げると、兄が眉間に皺を寄せて私たちを見ていた。

 その視線に、私は何だか居た堪れないような気持ちがした。
 何か私が悪いことでもして、それを咎められている、みたいな。