金魚鉢

 それから、一体どこに連れて行くのかと思えば、


「今日は一緒に寝よう」


 何て言われて、兄のベッドに落とされた。


 そして、私が起き上がろうとするよりも早く、兄もまたベッドの中に入ってきた。


「一緒に寝るって……」


 抗議しようとした私の頭を、兄の手の平が往復する。


「よしよししたって、もう子どもじゃないんだからね、私。騙されないよ」


 ちょっと膨れながらそう言えば、妹の私でも心臓が跳ねるくらいに魅力的な低い声で、


「そんなのとっくに分かっているさ」


 そして、そのまま兄は布団の中で私を抱き締めた。


「なぁ、母さんと父さんが死んだ時のこと、覚えているか?」


 兄の質問に私はもがくことを止めた。


 兄の心臓の音に耳を傾けながら、私は記憶を掘り起こした。


「うーん、正直言うとね。あんまり覚えていないんだ。私、幼かったしね。……ただ、二人が生きていたら、今頃どんな私になっていたんだろうって思うことはあるよ」


 私がそう言うと、一瞬だけ兄の鼓動が早くなった気がした。


 不安に思って兄の顔を見上げると、兄はどこか遠くを眺めていた。


 まるで、ここじゃないどこかにいるかのような。


「ねぇ、お兄?」


 少し震えた声でそう言うと、兄はこっち側に戻ってきた。

 そのことに酷く安堵して、私は兄に抱き付いた。


「お兄は、どこにも行かないでね」


 兄は穏やかに笑った。


「あぁ、もちろんだ」