金魚鉢


 最後の"馬鹿"がとっても温かく心に響いて、私の目から一粒涙が溢れた。

そして、一度溢れるともうそれを止めることはできなくて。


 まるで張り詰めていた糸が切れたみたいに、私は大きな声で泣いた。

 そんな私を兄はただ受け止めて、その胸に引き寄せてくれた。


「ふぇ、お兄」


「どした」


「私、おかしいのかなって思ってた。だって、優ちゃんは優しくて、」


「だから、あんなのは優しいんじゃないんだって」


「じゃあ、何て言うの?」


 私がそう聞くと、兄は頭をガシガシと掻いて、


「あー、それはな。ただの執着ってやつだ」


「え?」


「だから、あいつはお前に執着してんだよ。キモいほどにな。だから、お前も嫌だったんだろ? 纏わりつかれているみたいでさ」


「嫌だったってわけじゃ……。ちょっとだけ息が詰まるなって」


「だぁから、それを嫌気が差してたって言うんだろ?」


「そ、それに! 優ちゃんが私に執着しているなんてあり得ないよ。だって、優ちゃんは学校中の人気者で、女の子たちの王子様的存在で……」


「でも、知ってるか? あいつ、毎朝お前を迎えに来たとき、いつも俺の部屋の窓を睨み付けんだぜ。俺はいつ襲撃にあうか怖くて、夜道も歩けねーよ」


「嘘だ」


「嘘じゃねーよ。あいつは兄貴の俺にさえ嫉妬してんだよ」


「そうじゃなくって。お兄が夜道も歩けないなんて、嘘だってこと」


「お前、そっちかよ! まぁ、歩けるけどよ」


 なぁんて、いつもの会話をしていたら。

 どうやら私の感情も随分と収まったみたいで。


「……ま、ありがと。お兄」


 ちょっと照れくさいながらも、私は兄にお礼を言った。