「…本当は今日お断りする予定だったんです。」
「え?」
宮川さんからの衝撃の告白に間抜けな声が隠せない。
「でも…きてよかったです。」
少し微笑んですぐ無表情に戻ってしまった。
「笹川さんと出会わなければこんなすてきなお店、この先きっと知らないままだと思います。」
多分宮川さんは天然だ。
素直っていうか…
「こんなすてきなお店…知らないままだったらきっと後悔します。」
コーヒーを飲んで真っ直ぐ俺をみる。
「俺も今日キミと来れてよかったよ。」
「…?」
「会社でのキミしか知らなかったらこんな可愛いなんて知ることもなかっただろうしこれからまた一緒に出かけたいとなんて思わなかったよ。」
これは俺の本音だ。
ほんとに会社のスーツ姿しかイメージなかったしプライベートがこんなふんわりした子なんて想像もつかなかった。
「これからも関係深められたらいいなって思ってる。」
色んな意味で…
会社で信頼できるパートナーとしても、俺が今日で宮川さんに惚れてしまったって言うのも。
本当は伝えたい。
けど伝えたら壊れてしまいそうで。
せっかく少し心開いてくれたのに壊れたら彼女との関係が終わってしまいそうで。
「…笹川さんのような方とお付き合いする方は幸せですね。
きっとたくさん愛されて、喜怒哀楽も分かち合える、そんな方なんでしょうね。」
ぼんやり、俺の方を見ながら彼女の口から出た言葉。
「キミかもしれないよ?」
「私はあり得ませんよ。
人を…不幸にしてしまう私はきっと誰も愛してくれない。」
「でも」
「誰を愛するつもりもない。」
俺の続きの言葉を言わせないつもりだったのか、宮川さんはまた俺と初めて会った時のように虚無の目をした。
そして首元にあるネックレスをぎゅっと握る。
聞いちゃダメなんだろうけど…気になる。
けどまだ、踏み込んじゃダメだ。
「海、行こうか。」
「はい」

気持ちいいくらいの風で程よい太陽の照り具合。
「…海って初めてきました。」
え?
初めて?
「21で初めて?」
「はい。ほんとに初めてなんです。」
風で靡く彼女の髪。
髪を抑えて地平線を眺める宮川さん。
横顔がほんとに綺麗で。
思わず携帯のカメラで撮影してしまった。
「…今、撮りました…?」
「ごめん、綺麗でつい。」
俺のスマホを覗き込み宮川さん。
「…写真撮るの上手いですね。」
…多分俺が撮るの上手いんじゃなくてモデルがいいだけなんだ。
「写真撮るの好きだからさ。」
特にこういう綺麗な子は。
写真映えもするし被写体にもなる。
「…悪くないですね、海。」
彼女は静かな海を眺めてただ静かに微笑んだ。
【笹川将也side END】