私の体には限界がある。
だから人と深く関わらない。
一方的に私が線を引いて今まで生きてきた。
わざわざ線から踏み込んでくる人もいないから。
「あ、宮川さん。後で色々引き継ぎの紙とか渡すから確認してね。」
「分かりました。」
初日だし多分定時くらいで上がれるだろう。
もしかしたら定時より早く上がれるかもしれない。
でも今日は定時くらいで上がらせて貰えないと困る。
病院の予約が入っているから。
社会復帰しても尚、私は精神科と内科に通っている。
精神も肉体も弱い私。
本当はここまで弱くないはずなのに…
私がここまで弱くなったのはもう何年前のことだろう。
…確か元カレが亡くなってから…
……やめよう。
今は仕事に集中。

「あ、宮川さん。今日はもうあがりでいいよ。
また明日からもよろしくね。
マニュアルと引き継ぎの紙と諸々の書類、これね。一応クリアファイルに入れてあるけど要らなかったら捨ててもらって構わないからね。」
あっという間に夕方5時半。
あれから鬼のように仕事のことを頭に叩き込んでパソコンを自分の使いやすいように設定してデスク周りも便利なように整理整頓した。
「ありがとうございます。
皆様明日からもよろしくお願いします。
ではお先に失礼します。」
やはり初日。
本来なら6時までの仕事が30分も早く上がらせてもらえるなんて。
「あ、宮川さんって会社に来てから着替えてる?」
「いえ、スーツで出社してます。」
「俺、ロッカーとか案内してないよね、ついでに下まで送るよ。」
笹川さんが私の隣で歩幅を合わせて歩いてくれている。
女の子の扱いがわかっているというかなんというか。
「2階が一応女性男性で別れてるけど更衣室兼ロッカーなんだ。」
出社してきて上に上がるついでのような感じか。
「なるほど、でも私が使うことはなさそうですね。」
スーツで出勤してるし…
荷物も普通のカバンだし。
A4のファイルが入るようなカバンだから別に不便はないし。
「…そっか。あ、家はどのへん?」
「…車通勤なのでここから15分程ですね。
徒歩だと30分くらいでしょうか。」
会社なんて基本近くのところしか行かない。
前職も実家から近いからという理由で通っていた。
今は一人暮らししてるアパートからも実家からも近いから通っているってだけだ。
「じゃあ宮川さん。気をつけてね。
また総務課のみんな交えて歓迎会するから!
じゃあおつかれ!」
「…お疲れ様です。」
私が車に乗り込むまで見届けてから会社のビルに入っていった笹川さん。
…やっぱり女性慣れしてるのかな。