「はいっ、お世話になっております!
僕は宮川さんの…」
…なんて言えばいい?
社外取締役として彼女が働いている以上、俺より立場は上だ。
加えて彼女は社長秘書としても活躍している。
そんな彼女の教育係なんて、言えない。
「…僕は、彼女の一応先輩です。
立場は彼女の方が上ですが…」
「…そう。
…この度はうちの娘がご迷惑をおかけしました。」
深々と頭を下げる彼女の母。
「いえ!迷惑なんて思ってません!
自分の方こそいつも彼女に負担をかけてばかりで…」
俺は宮川さんの母よりさらに深く頭を下げる。
実際宮川さんには俺の仕事をやってもらったりしてかなり負担を掛け続けている。
今回倒れたのもかなりストレスがかかっていたのも含まれるだろう。
「あなたのような方となら安心して働かせられるわね」
ふわっと優しく微笑みながらまっすぐ俺を見つめる目。
…ああ、そっくりだ。
彼女の方が色素は薄いが視線が同じだ。
「毎日来てくれてありがとう。
この子が目覚めたらご連絡しますね。
こちら、私の連絡先ですので後程ワンコールかけていただいてもよろしいですか?」
小さな紙切れにさらさらっと電話番号を書いて俺に手渡す。
「…酷く疲れた顔なさってますから、少しお休みになってください。
ちゃんと連絡しますから。」
…そんな酷い顔をしているのか…
確かにここ1週間、彼女が心配すぎてまともに睡眠と食事ととっていない。
それもあってか、やつれているのだろう。
宮川さんの母にそっと頭を撫でられる。
「わかりました…では、ご連絡お待ちしております…」
俺は一礼して彼女の病室を後にした。

帰宅後
俺は風呂に入るために洗面所に向かった。
鏡に映る自分を見て驚いた。
俺ってこんなにやつれてたか…?
同期が声をかけてくれてたのもこれのせいか…?
心配かけすぎていたんだな…
「…よしっ…」
風呂から上がり軽く夕飯を済ませる。
そしていつもの日課だった筋トレを開始。
しばらくしていないだけでこんなきついのか…
いつも通りにしよう。
彼女が目覚めた時、いつもみたいに振る舞えるように。
目覚めて、一緒にご飯行ったりドライブしたりしてもう一度仲良くなろう。

そして仲良くなれたら今度こそ真剣に告白しよう。

彼女のことは最初あまり俺とは関わりのないタイプだったから落としてみたいと思って外面よくしてたけど、今は違う。
俺は本気で彼女の内面が好きなんだ。
俺の仕事量を見て手伝ってくれたり、好きなコーヒーの銘柄を覚えて買ってくれたり少しでも様子がおかしければすぐに気づいてくれたり…
宮川さんには返しきれないほどよくしてもらっている。
だから、見た目じゃなくて中身の彼女にどんどん惹かれていったんだ。
【笹川将也side END】

【宮川一花side】
…長い夢を見ている。
2年前までのあの幸せだったあの頃の夢を。
勇太と出会ってから交際して叶うはずのない結婚の約束までして…