彼女とこれから先を一緒に過ごしたい。
それくらい宮川さんのことが好きなんだ。
名前で呼びたいし、俺のことも名前で呼んで欲しい。
「…宮川さん。」
もう一度でいい…
俺の言葉を聞いて欲しい。
「…俺、宮川さんのこと好きだよ。」
ずっと歩いていた彼女の動きが止まった。
だけど彼女は何も言わずにそのまま歩き出してしまった。
…振られた…ってこと…なのかな…
【笹川将也side END】

【宮川一花side】
あんな電話してたくせに…笹川さんが私を?
そんなわけない…
私はアパートへの道を歩きながらネックレスをぎゅっと握る。
勇太との写真が入ったロケットペンダント。
「…こんなの付けてるんだもん…
私なんかと笹川さんは…
…絶対に釣り合わないよ…」
あんなに見た目もかっこよくて、面倒見も良くて…
冷たく凍りついてた私の心をゆっくり溶かしてくれるくらいの優しい人。
そんな人が女の子を落とすゲームをしてるとは思いたくなかった。
私も、笹川さんを好きになりたくなかった…
告白してくれた時に、ただ笑顔で頷けばよかったのかな…
電話のこと聞いてないフリして笹川さんの隣で笑顔になって…
「…私だって笹川さんに病気のこと言ってないし…隠し事してるんだもん…」
それなのに騙されてたなんて思う資格は…ないよね。
好意をむけてもらう資格もない…
私は勇太への贖罪としてずっと背負って生きていかなきゃ行けないのだから…
私だけ勇太じゃない他の誰かと恋して幸せになんてなれない…
ううん、違うな…

私は幸せになっちゃいけないんだ。

笹川さんの気持ちも無視して…挙句には疑って。
私はどうしてあの時勇太に守ってもらえたんだろう…
守る価値もないのに。
「…ごめんね、勇太。」
折角守ってくれたのに、こんなこと思っちゃったらだめだよね。
本当なら勇太とずっと一緒で、いつか結婚して…って幸せを想像して、夢を見て…
勇太がもし生まれ変わっているのなら…今度は丈夫な体で幸せになって欲しい。
私は…
このペンダントをつけている以上、笹川さんの隣に並ぶ資格はない。

ー…週明け。
私は休みの間一度も笹川さんに連絡を返さないまま今日に至った。
顔合わせるの…気まづい…
「宮川さん、おはよう」
いつも出社ギリギリの笹川さんが今日に限って早い。
私が、総務課から出るか…
着席して読書をしていた私は仕方なく立ち上がる
「待って」
笹川さんがカバンを置いて私の腕を掴む。
「…ごめんね、あんなこと急に言って…
困らせたくなかったんだけどね」
「いえ…困ってはないので、大丈夫です」
「あの言葉、忘れてくれて大丈夫だから…
今まで通り居させて」
…告白をなかったことに、ということだろうか。
なかったことにされてしまうのか…
…あの場から逃げたのは私。
…だから…私が文句を言える立場じゃない…
「わかりました。
これからもよろしくお願いしますね、笹川さん」
…笑顔は作れたはず…
ぎこちなくなってしまっただろうけど…
そっと私の腕を握る彼の力が強くなったのは気のせいだろうか。
ぎゅっと握って離したくないって気持ちが腕から伝わってくる。