「この髪ですか?」
髪をつまんだままこちらを見る彼女が可愛い。
「これ、巻いてるわけではなくて、ただの癖毛ですね。」
…??
巻いてるわけではない?
会社ではいつもお団子にしてるからわからなかったけど癖毛だったの??
驚愕したが、どちらにしろ可愛い事実は変わらない。
告白してしまうかと思った。
理性が仕事してくれてよかった。本当に。
「笹川さんも前回同様にかっこいいですよ。」
ふわっと微笑む彼女。
「今日は近所でお祭りやってるんだけど、そこ行かない?」
今日はこの町で夏祭り。
会社が冷暖房常についてるから季節感気にしたことなかったけど現在夏。
夏祭りで夜は花火が上がってて見やすい場所も調べてあるんだ。
「お祭りですか…私逸れないか、心配です。」
少し下を向いてぎゅっと拳を握る宮川さん。
何しても可愛い。
会社にいる時は綺麗で完璧超人って感じだけど、休日こうして会うとかなり天然で可愛い。
そういうところを見てると可愛くて抱きしめたくなる。
【笹川将也side END】

【宮川一花side】
今日がお祭りということは知っていた。
勇太が死んだ時とは違うお祭り。
むしろそのお祭りより規模が大きくて賑やか。
勇太がいなくなってからお祭りに行けなくて、ずっとトラウマになってしまっていた。
でもずっとこのままは…いやだ。
「迷子にならないように近くにいるよ。」
運転しながら笹川さんが優しい声で笑う。
最近の私は変だ。
笹川さんのような皆から愛されているような人が苦手で絶対関わらないと思っていたのに、いつしかこの人に惹かれて来ている。
好きかどうかと聞かれたら…正直わからない。
「じゃあ逸れないように側にいてくださいね。」
笹川さんの近くにいると…心地いい。
会社でもこの人になら素の私でいられる。
そばにいてくれているのが当たり前になっている。
最初にデートに誘われた時くらいからもう心地いいと感じていた自分がいた。
それくらいこの人に心を許してしまっている。
好きになるのも、時間の問題、そう思っていた。

「ー…笹川さん、どこ…?」
案の定お祭り会場で迷子になってしまった私。
スマホの番号にかけても繋がらなくて…
歩いて探すしかない。
端から歩こうと思ってお祭りの端っこに来た時、身体に異変が出てきた。
慌てて薬を飲もうと祭りの喧騒から外れてベンチに座る。
水と薬をカバンから取り出して飲む。
冷や汗と頭痛が治ってきてもう一度探し出そうと立ち上がる。
急にブワッと汗が出てきて体が震えてきてしまった。
「…え…?なんで…」
震える手をぎゅっと抑えて体の異変もそのままに私はまたお祭りの喧騒の中に入って行った。
背の高い人を探して…
私をいつも明るい光の中に導いてくれる人。
勇太を失ってずっと暗闇にいた私を見つけ出してくれた人。
…もう失いたくない…
もう、大事な人を失いたくない…だから極力人と関わらないようにしてきていたのに。