俺の分の仕事なのに俺…
後輩に自分の仕事させるなんて先輩失格だな…
不甲斐ない…申し訳なさでいっぱいだ。
「…ふぁあ…」
隣から小さな欠伸が聞こえる。
俺のせいで社泊させることになって申し訳ない…
「笹川さん」
「ん?」
「明日入社していらっしゃる方、どんな方でしょうね。
まあ、笹川さんならすぐ打ち解けられると思いますが。」
そうだった…
明日から新入社員の面倒も見なきゃならなくなったんだっけ。
宮川さんの仕事を覚えるスピードが桁違いで仕事できるから、彼女もまだ入社して間もないことすっかり頭から飛んでた。
「デスマーチ終わったら明日からの子と宮川さんの歓迎会でもしようか。」
「いえ、私の分は結構です。」
会話をしながらも淡々と仕事をこなしていく宮川さん。
いつもなら髪をお団子にしてキャリアウーマンって感じなのに余程疲れてきたのかお団子を解いてサイドでゆるっと縛っている。
「笹川さん一度帰って休んだ方がいいですよ。
明日のためにも清潔感ある姿でいないと逆に課長に怒られます。」
…うーん…
それは一理あるかもしれない…
けど今宮川さんがやってくれているのは紛れもなく俺の仕事だ。
自分の仕事は終わっているのに俺が無駄に仕事引き受けてしまったから…
「ごめんね宮川さん…」
「すぐ引き受けてしまうところ改善していってください。
私ができる仕事だからいいですけどできなかったらどうするつもりだったんですか。」
立場が逆転してしまった…
宮川さんは課長や部長が褒めるくらいかなり仕事ができる。
俺は会社に入ったのが3年前で年功序列で先輩なだけだ。
仕事ができるかどうかで見る実力主義なら確実に彼女がエースとして俺よりも上にいるはずだ。
今の仕事を見ているだけでもかなりわかる。
「…まあ、そうやって困ってる人を見たら助ける笹川さんは素敵だと思いますよ。」
…あれ?
もしかして今仕事はできないけど人間としてはいい人って感じでフォローされた??
まあ事実だし返す言葉もない…
仕事もできないし迷惑ばかりかけてしまう俺がどうやっても完璧な彼女を落とすなんてできるはずがない。
俺、自分で思ってるよりいい男じゃないのかもしれないなあ…


ー…翌朝8:30
結局宮川さんと俺とその他数人は家へも帰れず昨日のまま今日の仕事をすることになった…
「本日よりお世話になります!
篠原莉里です!
前の会社で人間関係が上手くいかなくて転職してきました!よろしくお願いします!」
…元気な女の子だなあ…
宮川さんとはまた違うタイプの女の子だ。
「篠原さんのことこれからよろしく頼むよ笹川。
宮川さんと同い歳の子だから話も合うんじゃないか?
…篠原部長の娘だからくれぐれも首が飛ぶようなことはするんじゃないぞ。」
人事の篠原部長か…
道理でおかしな時期に入社してきたと思ったよ。
「笹川です。これから篠原さんの教育係をさせていただきます。
教え方が下手な時あるけどわからなければ聞いてね。」
恐らく宮川さんが優秀すぎて俺の拙い教育でも理解してくれたのだろう。
今のデスマーチも彼女のおかげで俺の仕事はだいぶ少なくなった。
昨日俺の仕事を引き受けてくれたから今日入社の篠原さんをスムーズに迎えることができたのだと思う。
入社の資料や仕事のマニュアルもいつも通り用意することができたのは紛れもなく宮川さんのおかげだ。