真昼間なのに、照明を消して、カーテンまで閉め切った部屋は真っ暗だった。私はずかずかと部屋に入り、閉まっているカーテンを全て開けていくと、暴力的な太陽の日差しが部屋を明るくした。
 
 ベッドの上にうつ伏せで横になっている奏。その奏に私は声をかけた。
 
「分かったよ。なんで生田が奏にあげんな事ば言ったんか」
 
 一呼吸おいて、奏が私へと返事をする。
 
「……そ、それは生田に彼女が……」
 
 か細く震えた声。帰ってからも、また泣いたんだろう。ぐしゅりと鼻を啜っている。本当にこいつは今まで生きてきた分の涙を消費していないか?
 
「はぁ……違うし。生田に彼女なんておらん」
 
 私の言葉に反応し、奏は体を起こし、身を乗り出す。
 
「だって、今日の……あの子は?」
 
「あれは、従妹。生田の妹から聞いたけん、間違いなかよ」
 
「そ、そうなん?」
 
「そう。あんたさ、生田にただの友達とか、腐れ縁っち言うたやろ?」
 
「……」
 
「……」
 
「……言った」
 
私の問いに思い出しているのか、少し間があって奏が答えた。その答えに私はあからさまに大きな溜息をつく。
 
「……はぁ。やけん生田はあんたに迷惑かからんごと距離置いたんよ?」
 
「あの時は……生田の事ば……まだ、好いとるって分からんやったけん……」
 
「ほんなこつ……大バカ者」
 
「……うん」
 
 とすんっと奏の横へと座った私は、その泣きはらして真っ赤な瞳をまっすぐに見つめた。
 
「あんたさ、どうしたいん?このまま、生田と距離置いていく気?」
 
「まぁ、まぁ、遥香。でも、実際さ、幼馴染ってそげんなもんかもね。いつの間にか離れていって、気づいたら二人ともどこで何をしてるんかもわからん様になる。まぁ、しゃあないね」
 
 私の言葉を引き継ぐように相原が少し意地悪そうな感じで奏の耳元で囁いた。膝の上で握りしめている手に力が入ったのが分かった。
 
「……いや、そんなん……いややん……」
 
 またしゅんっと俯いてしまった奏の頬を両手で挟み込むようにして顔を上げ、こちらへと向かせた。
 
「ならさ、動きない?ぐじぐじといじけとらんで、今まで無自覚に猪突猛進でべたべたと引っ付いていきよったろ?あんたは脳筋やけん、頭で考えんと、今度は恋する猪突猛進乙女として、真正面から当たっていけば良かとたい」
 
「……嫌がられたら?うざいっち、思われたら?」
 
 また弱気な事を言ってる。
 
「そん時は、胸ぐら掴んで私は生田(あんた)の事が大好きだって、がつんと言ってやれば良かやん」
 
「そだよ、伊川。あんた、これ以上ぐずぐずしとったら、本当に横から生田とられるばい?」
 
 相原が煽るような事を言っている。だけど、それは私が頼んだ。相原には悪いけど、奏のでかい尻を叩いて、その目を覚まさせてやる為に。そんな私のお願いを相原は笑顔で引き受けてくれた。
 
「どうしたら……良いん?」
 
「さっきから言っとるやろ?突っ走れば良かったい。あんたらしさを全開に出してさ」
 
「出来るやか?」
 
 奏がおずおずと尋ねる。
 
「やらにゃ」
 
 優希が答える。
 
「やれ」
 
 相原が命令する。
 
「そ、奏ちゃんらしさば全開で」
 
 柏木が応援する。
 
「考えるな、突き進めっ!!猪突猛進乙女っ!!」
 
 そして、最後に私がばしんっと奏の背中を叩く。思わず背を仰け反らす奏。
 
「い、痛かやん……もう少し手加減してよ、遥香」
 
「んにゃ、出来んっ!!」
 
「ひどいっ!!……でも、ありがとう、皆。もう、なんかうじうじいじけてるのが馬鹿らしくなってきた。私さ、決めた。当たって砕けるけんっ!!」
 
「いや、砕けたらいかんやろ?」
 
「ほんなこつやん」
 
「まぁ、砕ける事はなかろうけど?」
 
「確かにね♪」
 
「……?」
 
 奏が私達、みんなの顔を不思議そうに見回している。まだ、こいつは生田の気持ちには気づいていない。それは、奏が気づくより先に生田に言わせなきゃいけないと思う。
 
 さあ、生田。
 
 覚悟しとけ?
 
 奏は動き出したぞ?