それより、電話をするのはここでも大丈夫なのだろうか?




「ここでも大丈夫か?部屋を移してもいいんだよ?」



「ここでいい。傍にいて。」


沙奈は、そう言って俺の手を握る。



その予想もしていなかった行動に、心が高鳴る。



突然触れられたことで、身体が熱くなった。



こんな調子で、沙奈を襲わずに済むのか?



沙奈を目の前にすると、理性を保つことに精一杯で仕方ないというのに。


それに、耐えきれないことだって前にあったよな…?



そんなことを考えていると、沙奈は紫苑と翔太に電話を入れていた。



「心配しなくて大丈夫だから。


うん。また連絡するね。」



沙奈はそう何度も言葉にして、2人からの電話を切った。



「ふぅー。」



電話を切ってから、沙奈はスマートフォンをテーブルへ置きソファーの背もたれに寄りかかった。




「大翔先生、ごめんね。」



「いいんだよ。それより、2人は大丈夫そうか?」



「うん。何回も大丈夫って言ったし何かあったら電話かメールするって言ったから平気だと思う。」




「そうか。それなら、大丈夫そうかな?」



「うん。診察も、大翔先生にちゃんと診てもらったし、補習に行く前も紫苑に診察してもらったから大丈夫。」



沙奈はきっと、体調の面でしか紫苑と翔太が心配をしているとしか思っていないんだろうな。



まあ、沙奈が未成年であってまだ学生である以上はまだそういう行為はしてはいけない。



沙奈のことを大切にしたい。



「そういえば、補習って言ってたけど夏休みも高校に行ってるのか?」



補習と聞こえたのは気のせいではないよな?



やっぱり、入院期間が長かったから出席日数が足りなかったりテストを受けられなかったりしてたよな…。



「うん。毎年恒例なの。奈子も一緒だから、心細くなんてないよ。」



早見奈子ちゃん。


ここ最近は、よく沙奈の口からその子の名前が出てくる。



奈子ちゃんの名前を聞くと、どうしても沙奈が傷だらけで救急外来へ運ばれてきたあの日のことを思い出してしまう。



奈子ちゃんとの関係については詳しく聞いてなかったな。



「奈子ちゃん?」



俺は、あえて沙奈に聞き返してみた。