「君の過去を聞いて嫌だなって、俺が思ったのは……何でだろうね」

今度は、簡単に答えを言ってはくれないらしい。でも、私でもわかるように、彼は説明してくれた。
「“好きになっちゃった”ということでしょうか?」
 
 野崎さんも……私を……?

 「そうなんだろうね。今、俺もそう思ったとこなんだけど……」
 
俯いたり、見上げたり、私はとっても忙しい。でも照れたような彼がいつもより素敵に見えて、私は俯くのをやめて、じっと見つめた。
“見すぎ”って言われるのかと思ったけれど、彼も私を優しく見下ろしてくれる。

「まいったな……」そう言ってついたため息は小さなものだった。

「……嫌なら言って」彼が手を置いたことで、ラウンドテーブルが、かけられた体重にギッと鳴る。
この人にされて、嫌なことなんてあるだろうか。そう思うと同時に彼の唇が重ねられた。
 彼が私から離れると、もう一度テーブルがギッと鳴った。

王子様にキスされた眠り姫はこんな気持ちだったのかなと思った。私の頭は彼からのキスのせいで甘く痺れたみたいで……これはキスをされたのではなく、魔女のつむに刺されたのではないのかと思った。駄目だと言われたのに、約束を破ったお姫様は、つむに刺され、みんなを巻き込んで100年の眠りについた。
 
 だけど、約束を破るのは、なんて甘美なのだろう。