ああ、そうか。
私は、野崎さんを“好きになっちゃった”んだ。ストンと府に落ちた。それはもう、気持ち良いくらい、ストンと。

「野崎さんは、“私の恋愛歴”を気にしましたか?」

質問に質問で返してはマナー違反だ。
でも、野崎さんは複雑そうな顔をしたあと、少し笑った。そして
「気にしちゃったんだよね」と、言った。それは、野崎さんは、“好きになっちゃった”わけではないってことだ。当然といえば、当然だ。
 
だけど、野崎さんはその感情について説明し出した。
「嫌だなって、思った。君について何も思っていないなら“ちょっと多いな”くらいの感想だっただろうね。でも嫌だと思った。それって、過去への……嫉妬心かもしれないね」
 
私は、彼の言ってる意味がわからなくて、首を傾げた。
「つい、この前まで、物凄く好きな女性がいたんだ……」
彼がそう言ったとたん、胸がチクンと痛んだ。それだけじゃなくて、暗い気持ちが胸に広がって、とてもいい気分だと言えない。
 
「今の、嘘ね。ただの例え話」
 彼がそう言うと、黒い靄が晴れたような気持ちになって、私は、パッと顔を上げた。
 
「君は、例え話だけれど、俺の過去を聞いてどうだった?」
「少し、泣きたくなりました」そう正直に答えた。
「じゃあ、例え話だと聞いた後は?」
「……ほっとしました」

恥ずかしくなって、また俯いた。