「あ、そうだ、聞きたかったこと、まだだったね」脈絡もなく、新庄さんがそう言った相手は香坂さんだった。

「ねぇ、常務ってどんな人なの? なんか園田さんには聞きづらくて」
「いや、どのみち香坂さんにも聞きづらいでしょ」
北口さんがそう言った。

俺から注意が逸れた事にほっとはしたが、香坂さんへと質問が投げ掛けられた事で、違う緊張が走った。
まさか、自分から“関係があった”とは言わないだろうが、念のため目でその旨伝えた。もしかして、園田さんが見張りと言ったのはこっちの意味だったのだろうか。香坂さんも俺に視線を返してくれた。大丈夫だろう。
 
 結局、香坂さんが真面目に常務の事を話そうとしているのに
 
「イケメンよね」
「……彼女いるのかなあ」
「そりゃあ、いるでしょう。あのお年で独身ってやっぱり相手を厳選しているに違いないわ」
「そうよねえ、羨ましいなあ。一緒に仕事出来るなんて」
 
 そんな事を知りたかっただけか。……いや、まあ彼女たちは先程からそんな会話しかしていないのだから、そうだといえばそうなのだが。
 加えて、酒の席なのだからそんな話しの方が楽しいのだろう。
 俺も、香坂さんも初めて彼女たちと酒の席に来たのだから、せっかくなのだからと、そんな話の方が聞きたいのかもしれない。