私が就職について口にすると、祖父母をはじめとするみんなが驚きを露にした。

「何だ、小百合(さゆり)には卒業したら結婚させようかと思っていたのに」
 そう言った祖父に祖母が頷く。

「何だ、卒業したら店を手伝わせようかと思っていたのに」
 そう言った父に姉が頷く。

「何だ、卒業したら、家事を手伝わせようかと思っていたのに。もちろん、花嫁修業で」
 そう言った母に、おそらくみんながそれがいいと思ったのだろう。

 少しの間があり
「そうしなさい」
 祖父がそう言った。

「ちょっと待って! 私、就職したい! 夢だってあるし!」
「夢? 」
「そう言えば聞いたことないわね」

 みんなが私に注目する。

「お、OL」

 私がそう口に出すと、静寂が訪れた。それもそうだ。OLが夢、だなんて。でも、言葉を用意していなかった私には、後には何も続けられなかった。


「OLか。いいんじゃないか」と、父親
「そうね」と、母親
「そうなると、父さんのところかな」
 そういった父親が、兄へと顔を向ける。上層部の父親よりも、兄の元の方が良いと思ったのだろう。いや、兄も重役であるので、実際はそんなに変わらない。

「うん、いいんじゃないか」
 兄が頷いた。