13番目の恋人

「うーん……直径60センチって小さいですね」
「そうね、80センチかしらね。それでもほら、お互いに食事でもすれば顔が近いわね」

万里子さんと向かい合って座り、食事をするふりをしてみると、確かに近い。万里子さんは、いい香りがする。これが、恋人ならばもっとドキドキするのかな、と想像してみる。もう少し大きいのにしようか。

「どうせ、短い間しか使わないしな……そんな悩むこともないんですけど」
「……」

ふと、万里子さんが顔を上げた。

「あなたの事情はわからないけれど、せっかく買うのだもの『どうせ』なんて妥協せずに、好きな物を選びましょう。付き合うから」
「え、あ……はい」
「値段が安いか、高いかではなくて、安くても気に入ったらそれでいいと思うの」
「確かにそうですね」
「そう、例え“短い間”であっても。人間関係とか環境もそう。短い間だからと蔑ろにしていては、それが相手に伝わるものよ。そして、自分自身も短い間だからってそんな心持ちでいてしまって《《ちゃんと》》できないでしょう?」

私はその通りだと、頷いた。仕事も、一人暮らしも“期間限定”どこかそんな気持ちが私の中にあったのかもしれない。

「今を……楽しみましょう。今の自分がいい気分でいられるの、最高でしょう?」

万里子さんはそう言うと、いとおしそうにそのテーブルを一撫でした。