お見合いは、相手方が善き日を選んで下さった、立春の頃
 
祖母の選んでくれた着物に帯も若々しく結ばれたものを見にまとい、両親とともに実家を出た。
 
庭園が見えるように開け放たれた障子にそれらしい掛け軸かかけられたお座敷。華やかに花が生けられていた。
 
 どのみち、これは顔合わせに近いものだ。
 覚悟は決まっていた。それなのに、私だけ水中にいるみたいだった。目の前もぼやけて、ゆらゆら。金魚鉢の中からこの状況を見聞きしているみたいだ。
 
 向こうのご両親も明るくて、優しそう。お相手の方も、穏やかな話し方で、声も頼人さんに、似てる。そんな身勝手に彼の面影を重ねた。
 
 この場にいて、当事者でありながら、まるで隣の家の会話が聞こえてきているようなどこか他人事のように過ごしていた。
 
 「素敵なお着物ですね」お相手の方に初めて、話しかけられて

 「大正時代の古いものです。祖母の見立ててで……絹には寿命がありますから、着られるのは私の代で最後かもしれません」
 
 両親の、顔を潰すわけにはいかず、ましてやこの人に……夫になる人に失礼だと顔を上げた。
 
「貴方の顔立ちにとても似合っている」
 
 目の前にいたのは……私の……
 
 
「では、あとは若い者どうしで」
 彼のお父様がそうおっしゃって、この台詞、本当に言うのだなと、他人事のように思った。