「小百合、結婚相手が決まったらしいな」
 常務室、兄から聞いたのか、俊くんが微笑む。
 
「まだだよ、お見合いするってだけ」
「あのな、俺たちみたいなのの見合いってのはな、それまでにそりゃあ、調べて、難関くぐり抜けてふるいにかけて、あとは本人たちが会うだけってなもんで、ほぼ決定だぞ、特にお前の場合」
 
「どうして私の場合、なのよ」
「お前、ぽやーっとしてるからな。それに、じーさんも親父さんも、ついでに兄貴も、そりゃあ、お前の相手となれば必死に探したはずだぞ。そこの難関通れるやつなんてめったにいない」
「何それ」
「……大事にされてるんだよ、それはそれは。あの家のお姫様、だからな」
 
「うん」
「幸せになれ、小百合。それがみんなの幸せってもんだ」
「うん、ありがとう。俊くん」
 
 そうか、みんな私のために、とてもいい人を探してくれたんだ。どんな人かは、わからない。でも凄くいい人で、私はきっと、幸せになるんだ。
 
 頼人さんとの幸せな思い出が、後押ししてくれた。きっと、いつか、彼を思い出さない日がくるまで、彼は私の背中を押してくれるだろう。優しい笑顔は胸を痛くするけれど、同時に幸せにもしてくれた。