──半年後
働いて思ったのは、楽しい。その一言に尽きる。毎日があっという間に過ぎていった。これが充実というものだろう。

それこそ覚えることが山ほどあって、それこそやることが山ほどあって、就職とともに同じく期間限定の独り暮らしの家へは、この半年間、眠りに帰るだけだった。

はっきりいって、仕事だけで精一杯で恋愛をする余裕なんて無かった。


──少し、ほんの少し、余裕が出てきたかもしれない。そんな時期だった。

「なあ、どうだ? 《《憧れだった》》OLは」
私の上司である常務にそう聞かれ
「大きいよ、声が……」
「はは、そうだな。えっと……仕事はもう慣れたかね、香坂さん」
常務がそれっぽくそう言い直した。

「お陰様で、毎日が充実しておりますわ、常務」
私の言葉に常務は何かを探るように片眉をあげた。

「……あ、そっちは全然」
「何だよ、早く相手見つけなきゃならないんじゃないのか?」
「うん、お仕事もね、少し余裕が出てきたから、今から……えっと、どうやって探していいかわからないんだけどね」
「“自然な恋愛”……だっけか?」
「そう……」
「ふうん、見合いも悪かないけどね」

俊くんは、相変わらず私の顔をじっと見たままで、私は知らずに鼓動が早くなった。