「違うの、そうじゃなくて……」
「向こうの気持ちが、わからないのか?」
「違うの、そういうのでもなくて……自分の気持ちがわからなくて」
 
 大宮くんはますます怪訝な顔だ。
「どっからどう見ても、野崎さんのこと大好きって感じだけど……」
そう言われて、顔が熱くなったけれど
「その、例えばね、大宮くんは先に結婚が無くても付き合える?」
「うーん……まあ、俺たちはまだ大学を卒業してそんなに経ってないだろ? 学生だったわけだ。結婚をいちいち考えてたかと言われたら微妙だな」

 あ、そうか……私たちはまだ若い。男性なら尚更だ。
 
「……そうだよね」
「でも、結婚を考えてないからって本気じゃなかったわけじゃないだろ? 高校生だって“結婚しよう”なんて口約束したりするじゃん。今から振り返ったら幼くて笑っちゃうけど、その時は結構本気なんだよね。実際18で結婚しちゃう人もいるわけで。何だよ、結婚したいわけ? 付き合ったばかりだろ」
「あ、違うの、多分ね、彼と結婚はしないと思う。それなら、今の恋人期間はどう気持ちを持っていったらいいのかなあって、思っちゃってさ」
 
大宮くんは、今日一番怪訝な顔で、

「はぁ?」と、言った。
どこまで説明していいかわからないけれど、最終形態に“結婚”というゴールがないなら、どんな心持ちでいたらいいのか、その切なさにずっともやもやしていた。
 
最初からわかっていたし、もちろんそれをどうにかしたいわけではない。ただ、気持ちがどうしてもそこに行き着いては、どうしていいかわからなくなっていたのだ。