つい、野崎さんを遠くで探す癖がついていた。それに気づいたのは、本人ではなくて、大宮くん。

廊下でたまたま二人になった時だった。
「見すぎ」そう言われて顔が熱くなる。
「だって……」全然会えてないんだもの、と言いかけて飲み込んだ。誰かに知られるわけにはいかないのだ。それなのに、
「まあな、仕事終わるの遅いから、デートらしいデートもお預けだもんな」彼はこう言ったのだ。

「……え、し、知って……」
「やっぱり、香坂さんなんだ」
「あ……」
「ごめん、確信はなかったんだけど、彼といる時に、チラッと見えちゃったんだよね。スマホのポップアップ画面。彼も嬉しそうにそのメッセージ読んでたし、恋人かなあって……もちろん、中身は見てないけど」
「……誰にも言わないで」顔の前で手を合わせて頼み込むようにそう言った。

大宮くんは、ふっと笑うと
「そりゃ、言わないけど……あんだけ切なそうに見てたら、香坂さんが彼を好きな事くらいはバレるんじゃない? まあ、彼の場合はモテるから、そんな人いっぱいいるのもしれないけどさ」
「うん……」
「で、思い通じたのになかなか会えなくて、そんな顔してんの?」
「……その……」
「ま、いいや。今度、飲みにいこ、煮詰まってんじゃん。俺からも少し話あるし、な?」
「うん……」
 
どこまで大宮くんに話していいのかは、わからないけれど、確かに私は自分の気持ちを持て余していた。