13番目の恋人

「部屋で二人だろう?……ちょっと、大人の事情だよね。あんまり近づかれるとちょっと……」

ああ、そういうことか。男の人はしたいものなのかな。野崎さんくらいの大人でも、すぐにそんな気分になるのだろうか。
 
「野崎さん、どうして恋人はセックスするんですか? 」
野崎さんは、「ぶふっ」とコーヒーを吹き出して、「熱ちっ」と今度は立ち上がると、ティッシュで口元を拭いた。そして、やっぱりため息を吐かれて、それから困ったように笑われてしまった。
 
「むしろ、恋人だからするんじゃないかな」
「どうしてなんですかね、男性のためだけの行為でしょう?」

 いつも、といっても、そんなに経験はないけれど、私にとってはただただ苦痛な行為で、相手の目の色が変わるのが嫌だった。
 
 しばらく間があって
「まさか、二人でするものだよ。好きだから、知りたいし、触れたい」

触れたい。そうだ、さっきの離れたくないって思った気持ち。触れて欲しい……。私……
「私も、野崎さんに触りたい! あ、違う、触られたい。違わない、なんだろう、触りたいし、触って欲しいって事……なのかな」
 
自分の感情なのに、うまく言葉に出来なかった。
「はは、そうだね、その気持ちがお互いに高まるから、恋人たちは抱き合うんじゃない?」
 
……お互いに、触れたいし、触れられたい。それって、今までに無かった感情で、だから私は今まで……抱かれる事が苦痛だったのだ。