「そこをどけ。どかぬとふざけた髭ごとっ。」



これが、男のこの世での最後の言葉となってしまいました。



「キィィエ、アアアアアアアアアアアアアアッ!!」



包帯男が刀の柄に手をかけるより早く、
武士は初歩を踏み出して刀身を抜き放ちました。
その後に雷でも落ちたかと思うほどの掛け声。



さらに小さな体からは信じられないほど
力強い太刀筋が包帯男を、ばっさり撫でたのです。



「相変わらずの熟達じゃのう。堀田どん。」



「あれ、淮矢(わいや)さんが検分なんですか?」



掛け声の特徴的な剣術は薬丸自顕流のそれ。
薩摩藩の人間が修練することで知られる流派でありました。
包帯男を斬ったのは、蔵之進の前で無邪気にしていた堀田徳太郎です。



その死体が川に落ちるまで見届けて、
柳の木の陰から大柄な男がのっそりと現れます。



大男の四角くていかつい顔は岩のようで、徳太郎と真逆の印象を与えました。