青いチェリーは熟れることを知らない② 〜春が来た!と思ったら夏も来た!!〜

 ずっと地元で生きてきたちえりは実家から仕事場へ通っていたため、外でモーニングをする習慣がほとんどなく、それはそれは新鮮で清々しいものだった。
 瑞貴と同じものを頼んだちえりは、湯気さえ甘く香るコーヒーへ口を付けた。

(はぁ……なんて素敵な一日の始まりなんだべ)

 店内を見回すと、室内の照明と外から差す光とが相まって普段の光景とはまた違った雰囲気を醸し出している。

「スーツっていうのがあれだけど、こういうのもいいな」

 胸元のシャツを寛げている瑞貴の微笑みに店内のOLたちがチラチラと熱い眼差しを向けていることにも気付かない様子の彼に、ちえりもまた見惚れてしまいそうになりながらも首を横に振って答えた。

「そんなことないです! 私はこうしてセンパイと居られるだけでデートみたいで嬉しくて楽しくてっ」

「そっか、そうだよな。一緒に居る相手が大事だよなっ」

 素直な気持ちを伝えてくれるちえりに瑞貴の頬は嬉しそうに緩み、色付いて……ますます人目を引き付ける。

「……」

(センパイが微笑むたびにOLサンたちの熱い視線がっっ!!)

 イケメン過ぎるもの問題だなとちえりが深刻になっていると、自分を落ち着けようとコーヒーに口を付けていた瑞貴が思い出したように口を開く。

「……そうだチェリー、帰りおばさんからの荷物忘れないようにしないとな?」

「あ……すっかり忘れてた」

「ははっ、だと思った」

 昔から変わらないちえりがいるとほっとする。自分だけが知っている、小さい頃からのちえりの姿だ。
 ちえりが背伸びして頑張る姿も、慣れない都会生活に頑張って溶け込もうとする姿も瑞貴は好きだったが、何よりも好きなのはちょっと抜けている……昔から変わらない愛らしいちえりだった。

「きっと重いだろうから俺が運ぶよ」

 いつものように優しい瑞貴の言葉に頷きそうになったちえりは慌てて首を横に振った。

「ありが……っだ、大丈夫です! 私結構力持ちですからっ!」

(……鳥頭にお礼する分も入っているんだったっ!!)

 中身をすべて知られては、鳥居に渡した分はどこにいったのかと聞かれかねない。
 だからと言って、正直に話してしまってはまた瑞貴を悩ませてしまうだろう。

(なるべくセンパイが気づく前に段ボールも処分して……それからっ……)